2020年はこの10のニュースが衝撃的だった
まだ12月の初めですが、2020年を振り返り経理マンが驚いたニュースを紹介します。
12月のびっくりニュースは、また個別で見ることにします。
今回は金額、衝撃度、理解不能度の3項目で判断し、トップ10を決めます。(各5点が最高)
金額はその不正などの大きさ、衝撃度は今までになかったことほど高く、理解不能度は全然理解出来ないことほど高くなります。
経理マンが思う、抑えておくべきニュースなので、賛否はあるかもしれません。
結論:あずさ監査法人には受難の年だったのかも
2020年の衝撃10大ニュース
10位:エルピクセル取締役の33億円FX横領
金額:☆☆☆
衝撃度:☆
理解不能度:☆
計:5ポイント
一言で言うなら、非上場会社の横領の不正です。
エルピクセルはライフサイエンスと画像解析というテーマの会社で、資本金は約30億円と非上場の会社としてはかなりの大きさです。
この事件は2017年~19年まで不正があり、それが19年終わりに発覚し、20年2月末に調査が終了し、20年6月に会社から公表されました。
横領した取締役は会社の資金をFXに使ったという、横領という点ではありふれた動機でした。
発覚のきっかけなどは詳細には書かれていませんが、これだけの金額を横領すればいつかはバレるでしょう。
非上場の会社は内部統制の意識が低いことが多く、こういった横領が起こりうる可能性はあると言えるでしょう。
金額が33億円という巨大な額だったので、今回取り上げました。
これだけの資金を調達出来るほど、将来性がある会社だったはずですが、非常に残念な事件でした。
なお、事件後にはガバナンスの強化として、代表取締役を2名体制、常勤監査役を設置などをし、また資金調達も新たに完了しています。
将来的には、IPOすることになるのかもしれません。
<会社の発表>
<報道のリンク>
9位:ひらまつ創業者兼元社長からまさかの訴訟
金額:☆
衝撃度:☆☆☆
理解不能度:☆☆
計:6ポイント
これは過去の記事でも紹介しています。
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高級フレンチなどを運営するひらまつで、退任した創業者かつ元社長が会社を訴えるという前代未聞の事件でした。
会社側の主張だけを見ると、創業者の少し横暴な主張にも思える訴訟で、会社側も対決姿勢を見せました。
訴訟が明らかになったことで、創業者に会社が譲渡したとされる不動産が問題となり、BS(貸借対照表)から除外することの妥当性について、議論が出ているようです。
これを受けて第三者委員会を立ち上げ、調査をしているようです。
結果としてひらまつは詳細な調査が終わらず、決算発表と四半期報告書の提出を延期としています。
ちなみにひらまつを担当している監査法人は、EY新日本です。
関連当事者取引という、通常の取引よりも注意すべき取引の話でした。
完全な第三者ではなく、元社長の会社という取引の条件が緩くなってしまいそうな会社なので、危険と言えます。
そこから問題が派生して、決算発表も延期しなければならないのですから、誰も幸せになりません。
会社を離れた創業者とはキレイに縁を切った方が安全です。
<報道のリンク>
驚愕の調査報告書が発表されました。
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8位:サン電子が株主提案で会社の取締役が解任される
金額:☆
衝撃度:☆☆☆☆
理解不能度:☆☆
計:7ポイント
これは株主提案によって、会社側が選んだ取締役が選ばれなかったというニュースです。
サン電子はJASDAQ上場の売上260億円程度の、デジタル・フォレンジックのモバイルデータソリューション事業が主力の会社です。
このサン電子に対して株主提案をしたのが、オアシスという海外の投資ファンドです。
実は、東京ドームやGMOインターネットにも株主提案を行ったことがある、物言う株主です。
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2020年4月当時は、オアシスが9%前後サン電子の株式を所有していました。
会社提案と株主提案が混じる臨時株主総会の結果は、 なんと会社提案が否決、株主提案可決となりました。
これにより、オアシス側が3名も取締役を送り込むことに成功しました。
そして会社側提案の4名が解任という中々見ない展開に。
ちなみにサン電子は4期連続で赤字で、今期も2Q時点で赤字です。
ここからどう巻き返しを見せていくかに注目です。
<報道のリンク>
7位:日本触媒×三洋化成の経営統合、まさかの中止
金額:☆☆☆
衝撃度:☆☆☆☆
理解不能度:☆
計:8ポイント
7位は、中堅化学メーカー同士の経営統合が中止になったというニュースです。
これも過去の記事で解説しています。
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SAPという紙おむつの原料メーカー同士の統合で、共に関西が本社の企業です。
2019年に統合のニュースが出て、結果的に20年10月に三洋化成側が断りを入れた形でした。
日本触媒の利益の悪化を受けての中止ということで、理解は出来るのですが、衝撃度はけっこう大きいと思いました。
どちらの会社もこれからが気になりますが、より日本触媒がここからどうなっていくかに注目です。
<報道のリンク>
6位:ハイアス・アンド・カンパニーの不正と監査意見不表明
金額:☆☆
衝撃度:☆☆☆☆☆
理解不能度:☆☆
計:9ポイント
東証一部だったハイアス・アンド・カンパニーが上場前と、市場の変更の際などに不正を行っていたニュースです。
売上の架空計上や、過大計上、費用の先送りなどが行われていたようです。
会社側の意図的に情報を隠す不誠実な態度に、会計士のあずさ監査法人も監査意見を出さないという決断に。
これも過去の記事で紹介しています。
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その後、監査法人の交代を経て、新しい監査法人に限定付ではあるものの監査意見を表明してもらい、一応上場廃止は免れることになりました。
東証は罰金として約3,400万円の支払いと、マザーズへの降格処分を決めています。
事件を受け、役員なども入れ替えが行われてはいますが、取締役だった人物が執行役員に戻るなど、少し疑問符が残るものです。
かつての勢いはなくなりそうな印象です。
5位:天馬の海外子会社での賄賂とガバナンス
金額:☆☆
衝撃度:☆☆☆☆
理解不能度:☆☆☆☆
計:10ポイント
天馬は東証一部上場の、プラスチック成形などを強みに持つ化学メーカーです。
中堅化学メーカー分析でも取り上げています。
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厳密には2019年12月に公表した不正ですが、これが2020年に問題が大きくなりました。
事の始まりは天馬の海外子会社で、税務調査の際に調査官に賄賂を求められ、渡してしまったというものです。
その子会社はベトナムにあり、2019年に当局の税務調査の際に賄賂がなければ8,900万の加算税と唆され、結果的に1,500万円を支払ってしまったという事件です。
さらに2017年にも同様の海外の公務員に対し、賄賂を支払っていた過去がありました。
ここまではよくある不正なのでしょうが、なんとそのやり取りを巡って名誉会長が社長解任など役員人事に介入しようとし、結果その名誉会長を会社は解任するという泥仕合。
名誉会長ほど危険な肩書はないと改めて思った事件でした。
さらには賄賂については、意図的に社外取締役のいない会議で決定するなど、ガバナンス崩壊という分かりやすい例でした。
さらに最終的には監査を担当していたあずさ監査法人も、会社側がタイムリーに情報を提供しないとして監査契約を打ち切りとしました。
4位:駅探31%所有の大株主に不遜な態度で取締役解任
金額:☆
衝撃度:☆☆☆☆☆
理解不能度:☆☆☆☆☆
計:11ポイント
第4位はこれまた、株主がキーとなる事件です。
駅探の筆頭株主で31%所有するCEホールディングスが、駅探の取締役を全員解任する提案を出しました。
これだけだとCEホールディングスがすごいことをしたようですが、実態としては駅探ではパワハラが原因で退職者が続出していたようです。
その元凶とされる駅探の取締役は(駅探社長も同席の場で)、CEホールディングスの社長がその改善などを迫ったところ、たかが31%所有しているぐらいで何を言うという趣旨の発言をしたようです。
これを受け、CEホールディングスが怒りの解任というわけです。
元々駅探は東芝が産みの親という会社で、解任された中村社長も東芝出身でした。
駅探はスマホの乗り換えアプリなどで有名で、一方のCEホールディングスは電子カルテが主力事業と少しカラーが違っていました。
総会での決議結果はCEホールディングス側の主張通りとなり、従来の駅探の取締役は解任となりました。
駅探・CEHDともに、着実に利益を出している会社なので、余裕のある時に動くべきなのでしょう。
<報道などのリンク>
3位:Nuts破産と8億円事件
金額:☆☆
衝撃度:☆☆☆☆☆
理解不能度:☆☆☆☆☆
計:12ポイント
第3位は上場会社のNutsが破産したというニュースです。
これも過去の記事で紹介しています。
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このNutsの破産は20年9月で、この主な原因として現金監査で8億円あるはずの現金が50万円しかなかったとされています。
そもそも8億も現金で持っておくのはリスクしかない、さらに現金監査は抜き打ちでもないのでこれだけ差異があるのは異常など、ツッコミどころが多いニュースでした。
正に頭隠して尻隠さずみたいな不正で、結局のところ開き直るしかなかったのかもしれません。
普通の上場会社としての体をなしていなかったので、利用されるだけ利用されてポイみたいな悲しい会社だったのでしょう。
本当に8億円事件のインパクトが大きすぎました。
2位:東京ミネルヴァ破産
金額:☆☆☆☆
衝撃度:☆☆☆☆☆
理解不能度:☆☆☆☆
計:13ポイント
第2位は東京ミネルヴァ法律事務所の破産です。
過払い請求で積極的に広告を出していたことで知られる東京ミネルヴァ法律事務所が、20年6月に弁護士法人としては過去最大の51億の負債を抱え破産しました。
売上は17億円に関わらず、3倍の負債の影には、消費者金融から受け取った過払い金の預り金を不正に流用していたという事実があります。
そしてこの破産には、ミネルヴァのオフィスなどの様々な費用をとある会社に支払っていたことが関わっています。
その支払額や広告の支払いが大きかったこともあり、預り金の流用を止めることが出来ず、自転車操業になってしまったようです。
法律のプロでも、こんなことになってしまうというのは、本当に怖いなと感じたニュースでした。
過払い請求に限定すれば、どこの法律事務所を使ってもそれほど差はなさそうに感じてしまいます。
そうなれば、法律事務所が宣伝広告に費用をかけるのも納得は出来ます。
こういった負の連鎖に入ってしまうと逆転が難しいのでしょう。
<報道のリンク>
1位:理研ビタミン、中国の子会社がむちゃくちゃ
金額:☆☆☆☆
衝撃度:☆☆☆☆☆
理解不能度:☆☆☆☆☆
計:14ポイント
第1位は、理研ビタミンの海外子会社の不正です。
理研ビタミンは「ふえるわかめちゃん」や「青じそドレッシング」で有名な食品メーカーです。
売上高は800億円前後の会社です。
この理研ビタミンのニュースは、2つの不正があります。
どちらも中国にある子会社「青島福生食品」が関わっています。
まずは第1の不正として、青島福生食品のエビ加工品の取引があります。
この中国の子会社は、とある顧客に対してかなりの多くの売上が発生するようになっていました。
しかし、この取引は架空のものだったのでは?という疑念が5月に発生したのです。
理研ビタミン担当であるあずさ監査法人とKPMG(中国)は、その取引を調べましたが、実在性が判断出来ませんでした。
さらに調査委員会を設置し、調査をしてもその取引は確認が出来ず、結果として120億円を特別損失に計上することとなりました。
中国側の子会社はあまり調査にも協力的ではなく、担当者が入院したり、メールの提供を拒否したりと、恐らく架空であったがための行動と思われます。
ただし、動機という点では不明です。
なぜ売上を架空で計上する意味があったのか?
例えば、親会社からプレッシャーがあったからやったという理由などがあるのが普通です。
しかし、それは不明であり、元々青島福生食品は買収によって子会社化した会社で、それほど理研ビタミンとは強力に結びついてはいませんでした。
さらに、調査を拒否するような姿勢なので、売上を過大に計上する意味がまるで見えてきません。
この不正を受け、結果としてあずさ監査法人は限定付適正意見を出すなど、会社の財務諸表の信頼性が確実ではないとしています。
第2の不正は、棚卸資産の評価が適切ではなかったというものです。
これが発覚したのは、10月というまだ最初の不正問題が解決していない状況でした。
棚卸資産の評価損とはメーカーであれば特に顕著で、モノは作ったけどずっと売れないという商品の価値を下げるという処理のことです。
例えば、製造してから2年経過したものは、300円で作ったなら評価損として半分の150円を費用計上しておくというものです。(四半期毎などにチェック)
これが売れたら、その評価損を埋め合わせることも出来て、売れなければ150円をさらに費用として計上します。
つまり、売れなそうだったら先に費用として計上しておこうという考え方です。
こういった棚卸資産の評価損を、中国の青島福生食品では正確に把握していなかったことが判明したのです。
そして調べを進めていくと、そもそもの在庫の基本であるルールさえ守られていない杜撰な管理でした。
先入先出法という最初に仕入れたものから、出荷する時は使うという取り決めだったのに、それが遵守されず、担当者の判断だったようです。
さらに在庫管理もIT化されておらず、過去の証憑も廃棄していて、とても上場会社の子会社レベルではなかったようです。
子会社の管理として、親会社である理研ビタミンがお粗末でした。
こちらの影響額は、6年にも渡る長期間で合計30億円程度でした。
2つ目の不正は単純に管理が杜撰だったということで、発生理由は理解出来るものでした。
この2つ目の不正を受けて、あずさ監査法人は監査意見を不表明としています。
主な理由としては青島福生食品の不正に関する会社側の対応の情報の裏付けが出来ないこと、さらに内部統制上の不備が改善されていないことです。
会社は引き続き資料を集めるようですが、監査法人の交代もあり得るかもしれません。
会社側はこの不正に対し、代表取締役会長が顧問になったり、役員報酬を減額しています。
天馬、ハイアス、理研ビタミンとあずさ監査法人にとっては20年は嫌な年だったのではないでしょうか。(もちろん監査法人が悪いのではなくて、不正をする会社が悪いです)
<報道のリンク>
まとめ
本日は経理マンが選ぶ2020年の10大ニュースを紹介しました。
今回はそれぞれについて振り返りはしませんが、監査法人に関わるニュースも多かったです。
ランキングには入れませんでしたが、総会の議決権集計が信託銀行のミスで反映されなかったものがあったなんてニュースもありました。
また希望退職募集も多くなって、テレワークが当たり前の年となりました。
色々な変化がドッと押し寄せた気がします。
これからの日本の論点2021 日経大予測 (日本経済新聞出版)
動画版はこちら
ここまでお読みいただきありがとうございました。