化学業界ナンバーワンの三菱ケミカルHDの大胆な社長人事を解説します。
化学メーカー大手の三菱ケミカルHDが21年4月から、日本人社長から海外の出身しかも外部の会社から社長を抜擢すると発表しています。
本日はこのニュースを経理マンの視点で掘り下げます。
もちろん、社長の国籍が海外だからと言って、それだけで何か違いが生まれるわけではないと思います。
ただし、化学メーカーは比較的保守的な業界と思われ、その中で化学メーカー大手の三菱ケミカルHDが海外から社長を選んだということはニュースだと考えます。
化学メーカーと言うと先日も、中堅化学メーカーの経営統合の中止についても解説しています。
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このニュースの持つ意味が非常に大きいのではないかと考え、少し調べてみました。
是非、最後まで見て、化学メーカーがどうなっていくのかを知って下さい。
結論:保守的な化学業界に、変化の兆し
リリース解説
まずはリリースについて簡単に紹介します。
10月23日の取締役会にて、新代表執行役の交代が決議されました。
これにより2021年4月から、新社長としてジョンマーク・ギルソン氏が就任する予定となっています。
経緯としては、現社長の越智氏が今年度終了をもって退任することがきっかけとしています。
それを受けて、指名委員会が後継者の選考を進めたとしています。
そもそも指名委員会とはなんぞや?というと、取締役や執行役などの偉い人の人事を社外取締役が中心となって決定するという仕組みです。
指名委員会を設置しない会社なら、取締役会にて役員人事などが決定され、この決定には代表取締役の好みが、良くも悪くも色濃く出てしまうことになります。
その点、指名委員会なら、あくまでも外部の社外取締役が決定の中心にいて、社長の暴走を食い止める働きが出来るということです。
三菱ケミカルHDの指名委員会の構成は下記となっています。
このように全5名の内、4名が社外取締役で、委員長も社外です。
唯一の社内取締役は、取締役会長を務める小林氏です。
この指名委員会の決定で、ジョンマーク・ギルソン氏が候補になったということです。(ちなみに指名委員会委員長は、三菱ケミカルHDの時価総額を引き合いに出して、もっと時価総額を高く出来るという趣旨の発言)
ギルソン氏はベルギーの出身で、アメリカの化学工業メーカーであるダウコーニング社でキャリアをスタートさせ、要職についた後、複数の会社でCEOやCOOを歴任。
現在はフランスのロケット社で、CEOを務めているようです。
年齢は57歳で、現社長の越智氏は68歳なので、年齢としては若返りと表現できます。
三菱ケミカルホールディングスとは?
では、その三菱ケミカルHDとはどんな会社なのでしょうか。
そもそものホールディングスって何?という方は下記の記事で解説していますので、参考にして頂ければと思います。
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まずは業績から見てみましょう。
会計基準はIFRSで、売上高は5年平均、3.6兆円の大企業です。
最終利益は5年平均すると、約1,300億円という数値です。
ちなみにこの売上高の数値は化学業界では、ダントツの1位で、業界の5位まで見てみると、下記になります。
- 三菱ケミカルHD:3.6兆円
- 富士フィルムHD:2.3兆円
- 住友化学:2.2兆円
- 旭化成:2.15兆円
- 信越化学工業:1.5兆円
では今期の業績はどうかというと、前期と比較すると若干の減となっています。
しかし、落ち込み度合いとしてはそれほど大きくはないと言えそうです。
三菱ケミカルHDがこれだけ売上が大きい理由は、一つには子会社が増加していることが挙げられます。
主な子会社として、下記の3社があります。
- 三菱ケミカル
- 田辺三菱製薬
- 大陽日酸
また三菱ケミカルも、三菱樹脂、三菱レイヨンを合併により統合した会社です。
化学全般に加え、大陽日酸という産業ガスの分野も併せ持つ会社となっています。
セグメント別の業績も紹介します。
主なセグメントは4つです。
直近の本決算ベースで見ると、売上を支えているのは、機能商品・ケミカルズ・産業ガスです。
ただし、利益ベースでは、売上3位の産業ガスが1位になっており、前年比でケミカルズ分野が売上・利益とも大幅悪化しています。
従業員で言うと、連結で約7万人の規模です。
従業員は機能商品と産業ガスに集中しています。
取締役会のメンバー構成
ここから取締役会のメンバーについて確認します。
ちなみに大株主の状況の一位は、日本マスタートラスト信託銀行の約8%で、銀行関係です。
この取締役メンバーがまた化学メーカーらしいものになっています。
特徴は下記の3つです。
- 内部昇格パターンが多く、外部からはグレン氏のみ
- 女性の取締役は社外のみ
- 社内取締役の平均年齢は64歳と高齢化
この内部昇格が多いというのが、化学メーカーの特徴と言って良いでしょう。
内部昇格とは、新卒時などからずっとその会社(前身の会社)で働いてきたという意味です。
化学メーカーは平均勤続年数が20年など、年数が長い業界として有名で、退職者が少なく、中途入社が少ないという特色があります。
新卒からその会社にいる方は居心地がいいのでしょうが、中途入社組は少し肩身が狭いとも言えるでしょう。
さらに女性の社員の比率も低く、出産後などに復帰する社員もめちゃくちゃ多いというわけではないでしょう。
これが取締役会メンバー構成にも大きく影響しているということです。
ここに57歳のギルソン氏がどのような変化を起こすのかというのが、ポイントとなりそうです。
もちろん来年の4月の就任時に、他の取締役メンバーの刷新も考えられるところで、そこでさらなる変化が起きる可能性もあります。
ギルソン氏に一番求められているのは、保守的な会社の改革とさらなる成長なのでしょう。
その選択として、海外から社長を連れてきたという意味は大きいと思います。
しかも、それが化学業界でナンバーワンの売上を誇る三菱ケミカルHDなのですから、非常に興味深いチャレンジだと思います。
三菱ケミカルHDから目が離せなくなりそうです。
他の化学メーカー
ちなみに海外籍の社長で、化学メーカーというくくりなら、JSRも有名です。
JSRは合成ゴムなどで有名なメーカーで、売上の規模は約4,700億円の中堅化学メーカーです。
JSRも2019年6月から代表取締役CEOとして、海外籍のエリック・ジョンソン氏を選んでいます。
エリック・ジョンソン氏はそれまで本体の取締役でもなかったポジションから、一気に代表取締役CEOにジャンプアップしたことでも知られています。
通常は執行役員から取締役になって、そこから取締役のトップの代表取締役になるのが普通です。
ただし、エリック・ジョンソン氏の場合は2001年にJSRグループに入社して18年が経過しているので、外部からいきなりトップになったわけではありません。
こう考えると、いきなり社長に海外から外部人材を持ってきた三菱ケミカルHDの異例さがよく分かるでしょう。
何度も言いますが、海外籍だからどうこうという議論がしたいわけではありません。
こういった外部の人間をヘッドハンティングして、社長に据えるという人事は増えていくのでしょう。
そして結果が出なければ、解任するという流れが増えるでしょう。
今までの日本企業は、なぁなぁで会社の利益よりも代表取締役の個人の利益に目が向いていたケースが多いのではと思います。
この三菱ケミカルHDの決定が、その流れを変える可能性は充分にありそうです。
まとめ
本日は化学業界トップの三菱ケミカルHDが、海外から外部の社長を連れてくるというニュースを解説しました。
まとめると、
- 現社長の退任に合わせ、後継者を探した
- 結果、ベルギー出身の57歳のギルソン氏が選ばれた
- 三菱ケミカルHDは業界トップの売上
- 取締役会メンバーは、化学メーカーらしいものになっている
- ギルソン氏には変革と成長が求められる
- JSRも同様に海外出身の社長だが、18年以上のグループでの経験があった
- 今後はヘッドハンティングからの社長就任のパターンが、増えそう
- これで日本企業の保守的な組織が、変わるきっかけになるかもしれない
そもそも、ヘッドハンティングで社長が変わる事自体が珍しいというのが、日本らしさなのでしょう。
所謂プロ経営者なんて呼ばれますが、経営者の成長には経験が不可欠なのでしょう。
いづれにせよ、三菱ケミカルHDがどのように成長していくかは興味津々です。
指名委員会のプレッシャーも大きいなぁと感じる経理マンでした。
動画版はこちら
今回の話でも出てきたJSRを含む、中堅化学メーカー43社を比較してみました。
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ここまでお読みいただきありがとうございました。