珍しい取締役の解任の提案だった、オアシスの株主提案を解説します。
東京ドームと言えば、広さを測るものさしとしても有名な建物ですが、IRを見ていると株主提案を受けていました。
その株主提案の内容をよく見てみると、非常に面白いものになっているので、経理マンの視点で紹介します。
さらに東京ドームという会社のビジネスモデルについても、自分がよく知らないということもあり、合わせて紹介します。
東京ドームそのものは知っているけど、中身までは見たことがない方が多いのではないでしょうか。
是非、最後までご覧下さい。
結論:恐らく否決される提案だが、意味はある
株主提案とは?
株主提案とは、その名の通り株主が会社に対し、提案をするというものです。
どんな株主でもOKではなく、議決権の100分の1以上 or 300個以上の議決権を6ヶ月前から有する株主に提案が認められています。
議決権とは100株持っていたら1つ与えられることが多いので、それなりに高いハードルと言えるでしょう。
そうでないと、株主総会などで何でも提案されてしまい、しかもそれが通らないものなら、時間がムダになってしまいます。
株主総会については、下記の記事でも説明していますので、興味がある方はこちらもご覧下さい。
www.finance-accounting-value.com
過去にはどんな提案があった?
株主提案にはユニークなものも多く、笑いのネタとして紹介されることもあります。
例えば野村證券などを傘下に持つ野村ホールディングスでは、2012年に下記のような株主提案があり否決されています。
- 社名を野村ホールディングスから野菜ホールディングスに変更
- トイレは和式に変更
- 取締役はクリスタル役と呼称する
このように社名変更だったり、会社の方針に対して文句や改善を要求することが出来るということです。
しかし、基本的には少数の株主の提案によるものなので、それが否決されることが多いです。
もちろん、賛成か反対は自由に投票が出来ますが、株主総会では筆頭株主という大きな存在があります。
例えるなら、選挙に仕組みは似ているけど、一人で1万票持っている人もいるというイメージです。
反対に、賛成で提案が承認されたケースもあります。
有名なのが黒田電気という会社で、提案したのは村上ファンドのレノでした。
レノの提案は会社提案の取締役6名に、1名だけ取締役を追加するというもので、どちらも賛成され、7名の取締役が選任されました。
その後として、村上ファンド側ではなく、別の投資ファンドが黒田電気を子会社化することとなり、黒田電気は上場廃止となりました。
※上場廃止という言葉だけだと悪い印象を持つ方もいるかもですが、必ずしもそうではありません。
このケースでは、6割近い賛成を経て株主提案が承認されたようです。
元々レノ側も、約37%近く株式を保有していたようで、これなら賛成の可能性も高かったでしょう。
詳細が気になる方はこちらの記事をご確認下さい。
東京ドームのケース
ここから東京ドームの株主提案を見ます。
まずは、リリースの内容からです。
提案は非常にシンプルで取締役の3名を解任(クビにする)というものです。
提案したのは、香港にあるオアシス・インベストメンツⅡ・マスター・ファンド・リミテッド(以下、オアシス)です。
オアシスは、株式数290万株、割合は3.13%の株主で、上位から数えると7番目となります。
提案の経緯としては下記となります。
①経営陣との建設的な対話が繰り返し拒絶された
②会社側の動きが遅く、問題意識を経営陣が持っていない
③意味のある回答がなく、これは取締役会に原因があるので、問題を抱えた3名の取締役を解任する
④解任理由として、代表取締役である長岡氏は企業価値向上が出来ていないことと、対話を回避してきたことの責任
社外取締役の森氏は長期の在任期間、出身母体の関係性に疑問
同じく社外取締役の秋山氏も長期の在任期間を挙げています。
しかし、オアシスの主張に対し、東京ドームは反論しています。
対話を拒んだという認識はなく、対話の日程調整を行っている最中だった。
その中で、一方的な提案を受け、大変に困惑しているとしました。
そして当然ながら、この提案に対し反対を表明しています。
取締役の資質とは?
今回の提案の着目したいポイントは、社外取締役2名が解任の対象となっている点です。
代表である長岡氏を解任の提案をするのは、流れとしては普通です。
しかし社外取締役が4名おり、その中の2名を解任提案することが気になりました。
有報から取締役のプロフィールを見てみます。
まずは社長の長岡氏です。
年齢は65歳で、2012年に取締役に就任し、16年に社長になっています。(取締役としては8年)
次に社外取締役です。
東京ドームはの取締役会は14名、社内取締役6名、社外取締役4名、監査役4名というバランスです。
今回、解任提案対象となった秋山氏です。
なんと年齢は85歳、2003年から17年も取締役を続けています。
出身はフコク生命で、社長まで経験した人物です。(現在は相談役)
さらに、富士急行、帝国ホテルでも取締役を兼務しています。
確かに17年も続けていますし、85歳という年齢を見ると、そろそろ交代されては?と私も思います。
次が森氏です。
こちらはメガバンクのみずほ出身で、年齢は75歳。
この方も15年取締役を続けています。
出身母体についてオアシスは言及していて、みずほ銀行というところが引っかかったようです。
ただし、他社の取締役は兼務していないようです。
そして社外取締役の他の2名も見てみます。
まずは井上氏です。
井上氏は朝日生命の出身です。
年齢は69歳とこれまた高齢で、13年間も取締役を続けています。
先程の森氏と似たような継続年数で、もしかしたら解任が検討されていたかもしれません。
最後に石田氏です。
こちらは20年4月に選任されたばかりで、この点は問題が全くありません。
会計士かつ弁護士というすごいキャリアをお持ちで、かつ女性のようです。
比較的高齢が目立つようなので、年齢について見てみます。
長岡氏(社長):65歳
谷口氏(専務):61歳
西勝氏(専務):62歳
萩原氏(専務):65歳
小田切氏(常務):62歳
久岡氏(常務):56歳
秋山氏(社外):85歳
森氏(社外):75歳
井上氏(社外):69歳
石田氏(社外):54歳
田中氏(常勤監査役):63歳
田中氏(常勤監査役):62歳
高橋氏(社外監査役):74歳
青木氏(社外監査役):62歳
予想通りの年齢で、平均すると65歳です。
勝手な意見ですが、社外の取締役はもう少し若い方が、いいのではないかと思ってしまいます。
社員の定年は長くても65歳ぐらいなので、それ以上の人にお願いする意味ってどうなんだろうと考えます。
オアシスが提案している2名の社外取締役については、私が株主だったら反対を出したくなります。
年齢も高齢で、15年以上も取締役を続けて会社側としてもアンタッチャブルな存在になっているのかもしれません。
※東京ドームは取締役の任期を1年にしています。
なぜこんな提案になった?
ここからどうしてこんな提案をオアシスはしてきたのかを考えていきます。
このオアシスは2018年にも、GMOインターネットに対し、株主提案をしている会社で東京ドームが初めてではなかったようです。
その際には、会社側の買収防衛策の廃止や、指名委員会等設置会社への移行など6コ提案をし、全て否決されています。
しかし、買収防衛策の廃止は賛成が4割まで達し、オアシス以外の株主からも一定の賛同は得ていたようです。
提案の背景は東京ドームの業績を見てからにしましょう。
5年間のPLの推移はこちらです。
売上高は直近で920億円、当期純利益は80億円です。
5年平均なら、売上は870億円、当期純利益は69億円です。
これだけを見ると、かなりの優良企業ですが、当期は赤字予想です。
売上は390億、当期純利益はなんと180億円の赤字を見込んでいます。
2年分の利益が吹っ飛んでしまうレベルです。
もちろん、緊急事態宣言や観客数制限の状況では、ビジネスも上手く回らないでしょう。
役員報酬の減額も発表しています。
オアシス側も今期の赤字予想を見て、この行動に動いた可能性が高そうです。
ただし10年分見てみると、10年の中で全体で赤字となったのは1回のみで、それが9億円の赤字というものでした。
セグメント毎の数値を見てみましょう。
売上を支えるのは、やはり東京ドームシティで、全体の約80%を占めます。
その次に大きいのは、全国に化粧品を中心に各種雑貨を扱う小売店の流通事業です。
利益ベースでも東京ドームシティがダントツで、2位として不動産が出てきます。
一方で流通は利益率は悪く、利益が最も出ていないのは「熱海」事業で赤字です。
セグメントの名前が熱海というのも斬新ですが、利益面では少し残念な結果です。
これが今期2Qの6ヶ月過ぎた状態がこちらです。
頼みの東京ドームシティが振るわず、不動産のみが利益を出しているという状況です。
依然として熱海は赤字のままです。
従業員数についても少しだけ。
正社員だけなら2,000名程度で半数以上が、東京ドームシティ事業に従事していることが分かります。
これからどうなる?
この株主提案を受けて、東京ドームは12月17日に臨時株主総会を開催することになっています。
オアシスが3%ほどしか所有していないことから、3名の取締役の解任は否決される可能性の方が高いでしょう。
注目ポイントは否決された後、東京ドームの本来の株主総会である来年の4月に誰を取締役にするかということです。
東京ドームは意地を張って高齢の2名の社外取締役をまた選ぶのか、それとも別の取締役とするのかどちらでしょうか。
オアシスの行動が一石を投じるものになるのか、会社側の姿勢を硬化させるものになるのか、私の予想は会社は変わらないと予想します。
ただし、このような提案があれば、他の上場会社のスタンスを変えるきっかけにはなるのかもしれません。
株主としての権利を行使し、他の株主がどのように判断するか、本来のガバナンスとはどうあるべきかを考えさせられます。
まとめ
本日は東京ドームが株主提案で、3名の取締役の解任の要求をされているというニュースを解説しました。
まとめると、
- オアシスという香港のファンドが東京ドームに対し、社外取締役2名を含む3名の取締役の解任を株主提案
- 東京ドーム側は反対を表明
- 株主提案とは一定の株式を持っていれば行使できる権利で、過去には提案が通ったこともある
- 確かに社外取締役の2名は、在任期間が15年以上と長い
- 東京ドームの取締役も高齢化が進んでいる
- オアシスはGMOインターネットにも株主提案したことがある
- 東京ドームは10年で1度しか赤字のない会社
- しかし、今期は大幅な赤字を見込む
- 恐らく提案は12月の臨時総会で否決される
- しかし、これが一石を投じるという意味は大きい
とりあえずは12月に注目という感じです。
そういえば、プラコーという会社も株主提案が通り、取締役総入れ替えというパターンでした。
経理サイドからすると、正にてんやわんやなんだろうなぁと同情します。
※追記
なんと三井不動産と読売新聞が東京ドームを友好的TOBで、東京ドームは上場廃止になる見込みです。
しかし、臨時総会は開催され、そこで仮に取締役が解任されたとしても三井不動産はTOBするようです。
なおオアシスもこのTOBには賛成しているようです。
三井不動産は売上1.9兆円の大企業なので、東京ドームとしても身を任せて安心でしょう。
株主を大事にすると経営は良くなるは本当か? (日本経済新聞出版)
動画版はこちら
ここまでお読みいただきありがとうございました。