幻の会社Synfomixは消えることになったニュースです。
中堅化学メーカー同士の経営統合ということで、個人的に注目していたニュースでしたが、ここに来て統合が中止になりました。
本日は経理マンの視点で、このニュースを掘り下げて解説します。
新卒時の就活では、化学メーカーに興味があったこともあり、日本触媒も受けたことがありました。(もちろん落ちました。)
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この2社にはどんな違いがあったのかということを中心にお伝えします。
是非、最後までご覧下さい。
結論:収益の柱が複数あるかが分かれ目だった
統合のシナリオ
元々の統合のシナリオから振り返ります。
2019年5月に、検討に入っているということが明らかになりました。
その後の同11月に、最終契約を締結したと両社が発表。
当初は2020年10月を新たな会社のスタートとしていました。
しかし、これが2021年4月に延期されていました。
そしてその要因の一つは、日本触媒の業績の悪化とされています。
この時に、株式移転比率の見直しもすると発表していました。
株式移転比率とは、簡単に言えばどちらがより主導権を持つかということです。
企業の価値の大きさによって、この比率が変動します。
例えば売上100億円の会社と、売上30億円の会社が統合するのに、力関係がイコールとは考えにくいでしょう。(利益も見ないと仕方がないですが)
ではこの2社はどのような違いがあるのかを見ていきましょう。
日本触媒とは?
まずは日本触媒という会社を紹介します。
日本触媒は大阪に本社を持つ、高吸水性樹脂(SAP)で有名な会社です。
今回はこの紙おむつにも使われるSAPがキーワードになります。
売上の規模は3,000億円程度、直近の本決算での当期純利益は110億円でした。
しかし、この利益は1年前などと比較すると、半減しているという状況でした。
さらに、当期の見込みも振るわない状況でした。
2020年10月8日には業績の下方修正を発表。
なんと通期での利益は60億の見込みから、10億まで減少としました。
非常に不調だった去年の110億が10億と、10分の1以下になるという非常事態です。
この業績の悪化が統合中止の主要因と言えるでしょう。
日本触媒の特徴はヨーロッパのベルギーに子会社を持っており、この会社が規模として大きいようです。
しかしながら、去年の本決算時の子会社単体の利益は赤字となっています。
日本触媒の株主構成を見てみます。
筆頭株主は、化学メーカー大手の住友化学の6.8%です。
2位はJXTGホールディングスというENEOSグループとなっています。
とは言え住友化学の比率が、特段に高いわけではないです。
連結の従業員の規模は、4,500名程度です。
セグメントで見ると、基礎化学品と機能性化学品が柱となっていることが分かります。
最初に述べた高吸水性樹脂SAPは、機能性化学品に含まれています。
ただしSAPの原料は基礎化学品に含まれるようです。
いづれにせよSAPが事業の中心だった日本触媒。
しかし、低価格の中韓の圧力に、その地位が脅かされていたのは事実です。
ちなみに新オフィスまで決まっていたのに、移転が中止になってしまいました。
三洋化成工業とは?
ここからは三洋化成工業について紹介します。
こちらは京都に本社を置く、界面活性剤や高吸水性樹脂SAPに強さを持つ会社です。
先程の日本触媒同様、高吸水性樹脂SAPに強みがあるので、経営統合しSAPの世界シェア3割を目指そうとしていたわけです。
業績の推移から見ます。
売上は1,600億円前後、当期純利益は年度によって変動があるものの、5年平均で80億円前後を出しています。
今期予想も公開しています。
売上、利益ともに減少する見込みですが、その落ち込みとしては小さいものとなっています。
見込みは、過去の決算と比べても悪いものとは言えません。
ここが日本触媒との大きな違いと言えそうです。
三洋化成の売上の大きな子会社は中国です。
こちらは赤字にはなっていません。
連結の従業員数は約2,100名程度です。(日本触媒の半分以下)
大株主の状況が興味深いです。
ツートップが豊田通商と東レで、15%以上と高い比率になっています。
3位には日本触媒、4位にはまたしてもJXTGホールディングスが登場します。
株主の状況が取締役会の構成メンバーにも影響しています。
取締役会の議長を務めるのは、ENEOSグループ出身の上野氏。
取締役にも豊田通商出身の方がいますし、
東レ出身の取締役もいます。
さらに、監査役としても、東レ、豊田通商それぞれの会社が関係していることが確認できます。
セグメントの情報を見てみます。
三洋化成は5つの事業があり、売上の主力となっているのはSAPを含む生活・健康産業関連です。
ただし、利益ベースでは生活・健康関連は4位となっているように、稼ぎ頭とは言えない状況です。
5つの事業で稼いでいる三洋化成と、SAP頼みの日本触媒という構図とも考えられます。
両社の違い
ここから両社の違いを見ていきましょう。
売上
- 日本触媒:2,600億円
- 三洋化成:1,500億円
当期純利益
- 日本触媒:10億円
- 三洋化成:70億円
連結従業員
- 日本触媒:4,500名
- 三洋化成:2,100名
収益構造
- 日本触媒:SAP頼み
- 三洋化成:5つの柱でリスクを回避
株主構造
- 日本触媒:ほぼ制約を受けない
- 三洋化成:豊田通商と東レ
会計基準
- 日本触媒:IFRS
- 三洋化成:日本基準
大きなところは、収益構造でしょう。
しかもこの1年で大きくそれが変わりました。
SAPで稼げなくなった日本触媒は、当期純利益で三洋化成に逆転されてしまいました。
売上や従業員では、三洋化成よりも大きかったのに、主力事業の利益で稼げなくなってしまい、かなり苦しい状況です。
しかも、それを挽回する他の事業も育っていない状況です。
今回の経営統合の中止は、三洋化成側が申し入れをしたそうです。
ここまで利益が悪化しては、経営統合のメリットが薄くなると判断したのでしょう。
日本触媒側も、今回の経営統合は出来ないが、将来的な他社との再編は視野に入れているようです。
経理的に見るなら?
ちなみに両社の監査法人はEY新日本監査法人で、この点は共通していました。
もし違っていたら、どちらにするかでまた議論が生まれてしまうところでした。
しかし、両社はIFRSと日本基準で会計基準も異なっていました。
統合するならIFRSでしょうが、その手間も考えると膨大な作業量だったのだろうと経理担当ではなくても怖くなります。
ただでさえ、経営統合でやることが多いのに、IFRS移行(三洋化成側が移行)なんて考えたくもありません。
統合のための準備の時間は山ほど使ったのでしょうが、経理担当は統合中止になったことで、ある意味安心している部分もあるでしょう。
まとめ
本日は日本触媒と三洋化成の経営統合中止のニュースを解説しました。
まとめると、
- 日本触媒側の業績悪化を受けて中止になった
- 日本触媒はSAP頼みの状況で、そこに依存することにリスクがある
- 三洋化成は日本触媒よりも規模は小さかったが、収益の柱が複数あることでカバーした
- 会計基準も異なる両社の統合は考えただけで怖い
- 日本触媒の未来は明るいとは言えない
一言で言うなら、大きいはずだった日本触媒が減速してしまったので、三洋化成がこれではマズイと離れたように見えます。
収益の柱の理想は、複数あることなのでしょう。
もちろん、理想だけを追求しても答えは出ません。
日本触媒がこれからどうなっていくのか、また気になる会社が増えました。
Synfomix(シンフォミックス)という社名もかっこよかったですが、仕方ないですね。
就活時には、この本を読んで化学業界を勉強したことを思い出しました。
図解入門業界研究 最新化学業界の動向とカラクリがよ~くわかる本[第6版]
動画版はこちら
三菱ケミカルHDの新社長を海外から招集した話もまとめました。
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日本触媒・三洋化成を含む中堅化学メーカー43社を分析したら、知る人ぞ知る高収益企業が1位でした。
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ここまでお読みいただきありがとうございました。