意外と知らない親子上場の意味を解説
本日は親子上場と、親子で何かが逆転しているという意味を解説します。
実は、前回の中堅化学分析で親子上場というワードが出てきました。
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改めて調べてみると、親子上場の厳密な意味を知らなかったこともあり、少しまとめてみます。
不勉強な経理マンでも正確に知らないので、きっと学びにつながると思います。
後半では親子逆転現象も紹介します。
結論:親子上場は50%超所有が大事
親子上場とは
まずは親子上場の定義から確認です。
親会社と子会社がそれぞれ上場していることを指します。
例えば、日本で一番大きい会社のトヨタ自動車は、上場会社の日野自動車の株式を50.1%所有しており、親会社・子会社共に上場しています。
ただし、親会社は子会社の株式を50%以上保有している、または40%以上で取締役の過半数を派遣しているという補足があります。
例えば、親会社が子会社の30%しか株式を所有していなければ、子会社が上場していたとしても親子上場とは定義しないということです。(これは私も理解していませんでした。)
ただし30%も所有していて、親会社が経営に全く干渉しないというケースも考えにくいような気もします。
親子上場会社の数
ここからwikipediaの親子上場会社一覧から、親子上場の会社を調べます。
まずはここに記載されている会社は全部で385社あり、上場会社は約3,700社あることから約10%と想像よりも多いものでした。
この385社の内訳として、親会社として上場しているのが146社、子会社(孫会社など含む)が239社でした。
最も多く上場している子会社を持っているのが、イオンの14社です。
イオン北海道やマックスバリュ東海などに加え、ドラッグストアのウエルシアグループもイオン傘下なのは知りませんでした。
さらにコンビニのミニストップも子会社で、社名だけからでは判断は出来ません。
上場子会社が多いのは下記の会社です。
上場している子会社数ベスト3
1位:イオン:14社
2位:ソフトバンクグループ:9社
2位:GMOインターネット:9社
4位:RIZAPグループ:8社
平均:1.6社
親と子が1対1でない会社、つまり上場子会社を複数社持っている親会社は39社ありました。
これは約27%なので、4社に1社は複数社、子会社が上場していることになります。
親子上場の問題点とは?
ここからは親子上場の問題点について語ります。
前提として、親子上場は減少傾向にあります。
アメリカや欧州と比較して、日本は親子上場している会社が多いです。
何が問題となっているかというと、子会社の独立性です。
親会社の視点に立てば、子会社の株式を過半数以上所有しているので、子会社を支配して利益を上げようとします。
子会社の株式を所有するために出資などをしているので、あくまでも自分のものだという意識が親会社にはあります。
上場していない子会社の社長や役員の人事は、親会社が全て決めることが多いはずです。
そういった非上場の会社は親会社が100%所有していることが多く、それならば親会社がどれだけ子会社を縛り付けても問題はありません。
しかし上場すると、その子会社には少数株主というものが生まれます。
親会社が100%所有なら、子会社は上場することが出来ません。
親子上場なら、50%近くの株式が銀行や投資ファンド、個人投資家まで色々な株主に所有されることになります。
しかし上場している親会社が50%を所有しているため、少数株主が株主提案をしたとしてもほぼ負けることが確定です。
あくまでも親会社に有利な決定がなされるのです。
それが50.1%以上の株式を所有することだ!と言われればそれまでですが、それなら株式を上場する意味はあるのかということです。
親会社の干渉は、子会社の取締役や監査役などを親会社出身の人物にするなどもあります。
なぜ親子上場を止める?
このように主に子会社の独立性に疑問があるので、欧米ではあまり親子上場が見られません。
こういった流れを組み、親子上場を止めるケースが増えています。
別に、上場廃止となったとしても現場のオペレーションが増えるわけでもありません。
さらに言えば、上場会社ではなくなるので、短信や有報も子会社としては出す必要がなくなります。
一番大きいのは上場コストがなくなることです。
上場コストとは上場を維持するための費用などで、先程の有報などの開示資料の作成や上場手数料という東証に支払う費用も不要になります。
そして子会社を堂々と支配することが出来ます。
じゃあ、そもそもなぜ上場するのかという話になります。
親子上場に限らず、会社の上場の大きな目的は信用力の強化と、資金調達です。
「上場している」というだけで会社の知名度は、飛躍的に上がります。
知名度が上がれば、優秀な人材がより小さなコストで手に入ります。
そうなれば、会社はもっと大きく成長することが出来るのです。
さらにその知名度が、会社の安定性に箔をつけてくれます。
上場しているから、信用力があると判断してもらえるのです。
これは銀行もそうで、よりお得なコストでお金を貸してもらえることもあるでしょう。
この部分は資金調達にも関連しますが、資金調達のメインは上場する際の株式の売出しです。
これによって、まとまった資金が手に入り、設備投資や人材などより規模を大きくすることが可能になります。
親子上場の場合は親会社が既に知名度や資金調達をしているので、よっぽどの理由があって子会社としての上場を目指すということでしょう。
ソフトバンクグループの上場会社が多いのは、やはり資金調達の部分が大きいのかなと推察します。
経理はめっちゃ大変
ここで親子上場だと間違いなく経理が大変という話をします。
大変なのは親会社の経理です。
上場している子会社は自分達の決算を終わらせます。
それが終わらないと、親会社の経理はスタートに立てません。
まず子会社が終わって、それから親会社が連結決算を進めていくことになります。
もちろん、上場していなくても子会社が多ければ単純に面倒です。
これは以前の記事でも書いていますので、興味がある方はどうぞ。
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上場しているなら決算の精度も高める必要があります。
非上場の子会社で規模が大きくなければ、少し正確性が怪しい決算を作っても、それほど細かくはチェックされない可能性があります。
しかし、上場しているなら、そんなことは許されません。
子会社の数値が監査法人の監査によって変われば、ドミノ式で親会社の数値も変わってしまいます。
上場している子会社が多いイオンなんて、とんでもない恐怖です。
多分、1回で決算が終わるなんて考えてはいけないレベルなのでしょう。
子が親を超えるパターンは?
親子上場を語る際によく出てくるのが、親会社よりも子会社が大きいという逆転のパターンです。
売上は多くの場合で親会社>子会社となりますが、利益では逆の親会社<子会社もあり得ます。
親会社は全部の子会社を合算するので、出来の悪い子会社が足を引っ張る可能性もあります。
上場している子会社は好調でも、非上場の子会社が不調で、親会社の方が上場子会社よりも利益が出ないことということです。
こうなると時価総額も逆転するケースがあります。
時価総額とは投資家の期待値なので、子会社の方が期待出来ると判断すれば、子会社の方が大きいこともあります。
時価総額とは?
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よく言われるのがNTT(親会社)よりもNTTドコモ(子)の方が大きいという逆転現象です。
11/27(金)終値ベースの時価総額は、NTTは9.8兆円でNTTドコモは12.5兆円です。
ちなみにNTTがNTTドコモをTOB(株式公開買付)し、ドコモは上場廃止が決まっています。
ではこれ以外の会社で子会社の方が時価総額が大きい会社はあるのか、238パターン調べました。
少し違いますが、兄より優れた弟など存在しないです。
なんと7社だけ存在したので、差額が大きい順に全部紹介します。
1位(子)ベネフィット・ワン:5,500億 >(親)パソナグループ:780億
2位(子)ゆうちょ銀行:3.9兆円 >(親)日本郵政3.6兆円
3位(子)タカラバイオ:3,600億 >(親)宝ホールディングス:2,400億
4位(子)三井海洋開発:1,000億 >(親)三井E&Sホールディングス:310億
5位(子)ギガプライズ:380億 >(親)フリービット:220億
6位(子)ソフトブレーン:270億 >(親)スカラ:150億
7位(子)チムニー:250億 >(親)やまや:230億
ベネフィット・ワンが4,700億円も上回るという結果でした。
そして比率で見た場合のランキングです。
1位(子)ベネフィット・ワン:701%
2位(子)三井海洋開発:335%
3位(子)ソフトブレーン174.5%
4位(子)ギガプライズ:174.4%
5位(子)タカラバイオ:148%
6位(子)ゆうちょ銀行:109%
7位(子)チムニー:106%
一番大きいのは、こちらもベネフィット・ワンで親会社の7倍という大差です。
時価総額は常に変動するので、これもまた逆転の可能性がありますが、中々見られないパターンではないでしょうか。
ちなみに上場子会社を14社も持つイオンは時価総額2.8兆円で、上場子会社14社の時価総額を合算すると2.3兆円と、親の貫禄を見せつけています。
株式投資の視点だと、TOBで上場廃止なら子会社の株価にプラスアルファがつくことが多く、これを狙うという投資方法もあります。
つまり、TOBされそうな子会社を持っておけば、儲かるかもしれないということです。
まとめと総括
本日は親子上場とは?という話をしました。
まとめると、
- 親子上場とは親会社・子会社共に上場している
- ただし、親会社が50%超、または40%超かつ取締役の過半数を派遣しているのが条件
- イオンは14社も上場会社を持っている
- 上場会社全体で見ると10%が親子上場の会社
- 親子上場の問題点は上場しているのに、子会社が完全に独立していないこと
- 親子上場は減少傾向にあり、上場コストが不要になることが大きい
- 上場の目的は信用度の向上と資金調達
- 経理は親子上場だとメンドイ
- 親子逆転はNTT以外に7社あった
wikipediaを見て時価総額を調べましたが、2社は既に上場廃止になっていました。(どういう基準で更新するんだろう?)
分かったつもりで勘違いしていることって意外と多いのかもと思った経理マンでした。
動画版はこちらです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。