中堅化学メーカー53社分析
今回は売上300億円~999億円までの化学メーカー53社を分析対象にします。
前回は1,000億円~5,999億円までの化学メーカーでした。
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今回はランキング以外の要素として、平均勤続年数や給与などを記載しています。
就活生の方にも参考になる話となっています。
是非、最後までご覧下さい。
結論:53社の頂点は、就活している時は全く知らなかった会社
今回のターゲットは売上300億以上~999億円
前回は中堅化学メーカーとして売上6,000億円未満の会社としました。
上場会社の化学メーカーは211社あり、前回は21位~63位までの43社を見ました。
今回は前回よりさらに小さい売上300億円~1,000億未満の会社かつ、東証一部に限定し53社を見ます。
これで中堅化学メーカーについては一通り触れることが出来そうです。
13の項目で見る
企業を決算書の情報から行う財務分析には、3つの観点があります。
- 利益が稼げているかという収益性
- 財務が安定しているかという安定性
- これから伸びるかという成長性
これで13個のポイントで、上位の5社に得点を付けていきます。
1位なら5ポイント、3位なら3ポイント、5位なら1ポイントなどの順です。
最大で65ポイントとなっています。
1. 収益性:当期純利益の金額の大きさ
1位:ノエビアHD+72億円
2位:積水樹脂+71.7億円
3位:扶桑化学工業+70億円
4位:KHネオケム+69億円
5位:信越ポリマー+63億円
最下位:戸田工業△53億円
53社平均+25億円
2. 収益性:当期純利益率
売上と当期純利益の比率
1位:扶桑化学工業+16.9%
2位:ノエビアHD+12.2%
3位:タカラバイオ+11.0%
4位:四国化成工業+10.9%
5位:積水樹脂+10.6%
最下位:戸田工業△16%
53社平均:4.3%
3. 収益性:5年間の平均当期純利益額
1位:KHネオケム+71億円
2位:積水樹脂+69億円
3位:関東電化工業+65億円
4位:扶桑化学工業+64.2億円
5位:ノエビアHD+64.1億円
最下位:戸田工業△28億円
53社平均+29億円
4. 収益性:従業員一人あたり当期純利益
※正社員のみ
1位:扶桑化学工業+896万円
2位:KHネオケム+854万円
3位:関東電化工業+561万円
4位:積水樹脂+528万円
5位:テイカ+479万円
最下位:戸田工業△446万円
53社平均+195万円
5. 安定性:総資産
1位:太陽HD:1,422億円
2位:積水樹脂:1,300億円
3位:堺化学工業:1,216億円
4位:長谷川香料:1,139億円
5位:中国塗料:1,061億円
最下位:東邦アセチレン:294億円
53社平均:724億円
6. 安定性:自己資本比率
1位:タカラバイオ+89%
2位:扶桑化学工業+87%
3位:信越ポリマー+80%
4位:長谷川香料+79%
5位:天馬+78%
最下位:ダイキアクシス+24%
53社平均+59%
7. 安定性:現預金
1位:積水樹脂:419億円
2位:信越ポリマー:417億円
3位:四国化成工業:326億円
4位:ノエビアHD:304億円
5位:太陽HD:291億円
最下位:北興化学工業:9億円
53社平均:127億円
8. 成長性:時価総額(投資家の期待)
1位:タカラバイオ:3,587億円
2位:太陽HD:1,676億円
3位:ノエビアHD:1,539億円
4位:扶桑化学工業:1,204億円
5位:KHネオケム:1,071億円
最下位:東邦アセチレン:85億円
53社平均:507億円
9. 成長性:5年連続で増収増益しているか?
※53社の中で、該当なし
10. 成長性:5年間での売上の伸びの額
※5年前と直近を比較
1位:太陽HD+208億円
2位:旭有機材+151億円
3位:レック+143億円
4位:日本特殊塗料+133億円
5位:住友精化+127億円
最下位:中国塗料△274億円
平均+22億円
11. 成長性:5年間での売上の伸びの%
1位:レック+142%
2位:太陽HD+141.8%
3位:旭有機材+136%
4位:日本特殊塗料+130%
5位:関東電化工業+125%
最下位:藤倉化成+72%
平均+107%
12. 成長性:5年間での当期純利益の伸びの額
1位:信越ポリマー+31億円
2位:タカラバイオ+25億円
3位:ノエビアHD+23億円
4位:扶桑化学工業+22.9億円
5位:旭有機材+22億円
最下位 :中国塗料△66億円
平均△2億円
13. 成長性:5年間での当期純利益の伸びの%
1位:レック+417%
2位:旭有機材+344%
3位:タカラバイオ+292%
4位:ダイキアクシス+267%
5位:エステー+256%
※黒字から赤字パターンがあるので
最下位と平均は割愛
中堅化学メーカー53社のランキングベスト5位を発表
第5位:18ポイント獲得
第5位はノエビアHDです。(売上590億円)
ノエビアは化粧品で有名ですが、一方で医薬品や栄養ドリンクなどの食品という事業も持っています。
利益率は化粧品が25%、医薬・食品が11%とやはり化粧品が稼げるビジネスです。
直近の当期純利益の額で1位、時価総額で3位、5年間前からの当期純利益の伸びで3位など、利益面での強さがありました。
直近の決算でも借入金がゼロなど、非常に安定性のある会社です。
前回の中堅化学メーカーランキングでも、化粧品メーカーが上位にランクインしたように、強いビジネスモデルと言えそうです。
ちなみに役員報酬は代表取締役会長、代表取締役社長共に約5億円ずつ貰うというぶっちぎりの数字です。
1億円でも十分高額で5億なのだから、サッカーで例えるなら13-1の試合ぐらいの凄さでしょう。
第4位:19ポイント獲得
第4位は太陽HDです。(売上710億円)
自分も最初勘違いしていたのですが、三菱ケミカルHDの子会社の大陽日酸とは無関係です。
こちらはプリント配線板(PWB)用の絶縁材インキを製造している会社で、なんとこの製造に欠かせないソルダーレジスト(SR)で世界No.1のシェアを誇るようです。
太陽HDは総資産で1位、時価総額で2位、5年前からの売上の伸びでランクイン。
売上が拡大している成長性が高い会社と言えます。
化学メーカー大手のDICが19.64%の株式を所有しており、インキという共通点があります。
セグメントで見ると、医療・医薬品事業を展開しており、売上の伸びはこの医療・医薬品の成長によるものが大きいです。
ただし利益率では、世界でシェア1位の電子機器用部材が21%と圧倒的です。
ちなみに太陽HDの佐藤社長は会計士出身で、けっこうレアなケースです。(前回のサンマルクHDの社長と同じ)
第2位:20ポイント獲得
第2位はタカラバイオです。(売上350億円)
今回は20ポイントで2社が並んだので、売上の小さい方から紹介します。
タカラバイオはその名の通り、バイオという遺伝子・再生医療研究用試薬がメインの会社です。
大株主は宝ホールディングスで、こちらも上場という親子上場の会社です。
宝ホールディングスは、宝酒造を傘下に持つなど、梅酒、みりんやチューハイで有名です。
タカラバイオは自己資本比率、時価総額がトップ、さらに当期純利益の伸びでもランクインしていました。
こちらも無借金の会社で、安定性と成長性が高いです。
セグメントではバイオ産業支援と遺伝子治療に分かれており、どちらも利益率が高いです。
特に遺伝子治療セグメントは売上は小さいものの、利益率が34%と驚異的です。
さらに海外売上比率も55%と高いのが特徴で、特にアメリカや中国向けが大きくなっています。
第2位:20ポイント獲得(同率)
もう一つの第2位が同じく20ポイント獲得の積水樹脂です。(売上680億円)
こちらも積水化学工業が21.1%を所有する親子上場(※本来の意味は40%超なので実際は違う)の会社です。
積水樹脂は防護壁など道路資材に強みを持つ会社で、具体的には人工芝やフェンス、ベンチや道路標識まで幅広く生活に馴染んだものが多いです。
セグメントは公共分野か民間分野かというシンプルなもので、売上や利益率もそこまで差はなく、穴のない布陣と言えます。
積水樹脂は当期純利益の額、5年間の平均当期純利益、総資産などでランクイン、さらに現預金で1位と安定性を見せました。
私も就活時に受けたことを覚えていて、積水化学の本社でもある大阪の堂島関電ビルに行きました。
第1位:23ポイント獲得
第1位は扶桑化学工業でした。(売上410億円)
扶桑化学工業は、化学メーカーばかり見ていたはずの就活時には全く見ていませんでした。(と思ったら、今年は理系しか募集していないよう)
リンゴ酸と超高純度シリカが強みの会社です。
リンゴ酸などの果実酸類は、飲料や加工食品に使われるものです。
シリカは半導体産業を中心に需要があるとしています。
セグメントを見ます。
リンゴ酸などのライフサイエンス事業は利益率18%に対し、シリカなどの電子材料は33%と差があります。
やはり収益の柱はシリカと言えます。
海外売上比率も見てみます。
比率は42%で、一番多いのはアジアの台湾です。
次に北米となっています。
扶桑化学工業は当期純利益の額で3位、当期純利益率17%でトップ、自己資本比率2位、一人あたり当期純利益1位など幅広くランクインしました。
ランキング以外の要素
ここからランキングとは関係ないですが、会社の実態を知るのに良いと思われる部分を紹介します。
1. 社長の年齢や在任期間を見る
社長が高齢ベスト3
1位:ノエビアHD:84歳
2位:長谷川香料:82歳
3位:信越ポリマー:76歳
社長が若いベスト3
1位:日本化学工業:44歳
2位:ステラケミファ:47歳
3位:天馬:50歳
平均64歳
なんとノエビアは84歳の代表取締役でした。
逆に44歳という若い例もありました。
今回は社長に何歳で就任し、今在任期間がどれだけかを調べてみました。
最も高齢で就任した会社ベスト3
1位:信越ポリマー:69歳(7年経過)
2位:第一工業製薬:66歳(7年経過)
2位:四国化成工業:66歳(2年経過)
若くして社長になった会社ベスト3
1位:ノエビアHD:28歳(56年経過)※創業者
2位:レック:34歳(37年経過)※創業者
3位:バルカー:36歳(24年経過)
平均:54歳で就任
1位と2位は創業者なので、ある意味当然ですが、バルカーはそうでもなく非常に珍しいパターンでしょう。
他にも総合ランキングで4位だった太陽HDも42歳で社長就任となっていました。
在任期間が長い社長
(代表取締役社長になって何年?)
1位:ノエビアHD:56年
2位:レック:37年
3位:ハリマ化成グループ:32年
平均:10年
1~3位まで創業者一族関係となっていました。
もちろん、2020年に社長となった会社もありますが、10年以上社長を続けている会社が19社となりました。
2. 平均勤続年数は?
まずは会社に勤続した従業員が何年勤めているかです。
化学業界はこの平均勤続年数が長いことで有名です。
平均勤続年数ベスト3
1位:未来工業:22.4年
2位:信越ポリマー:20.4年
3位:旭有機材:20年
1位は残業ゼロで有名な未来工業でした。
2015年の記事ですが、残業ゼロの上場会社なんてかなりの差別化と言えるでしょう。
有給休暇も年間140日というとんでもない数字です。
ダントツの1位なのも、正に納得です。
2位と3位はそれぞれ親子上場している会社です。
親会社の数値も見てみます。
2位の信越ポリマーは信越化学工業が53.3%所有しています。
信越化学工業の平均勤続年数は20.2年で、ほぼ同じような年数です。
3位の旭有機材はイヒで有名な旭化成が30.3%所有です。(※これも厳密には親子上場ではない)
旭化成の平均勤続年数は15.1年と、こちらは5年も短くなりました。
ちなみに最下位としては、ノエビアHDの5.9年なのですが、これはホールディングス体制に移行したことによる異常値で、こういったHD関係だと勤続年数があまり意味がありません。
HD以外で一番短かったのはレックの11.8年でした。
レックは激落ちくんで有名な会社で、この年数もそれほど悪いとは言えない数値でしょう。
53社の平均は16.3年と非常に長いものになりました。
ちなみに日本で一番大きいトヨタ自動車は15.8年ですから、化学メーカーの年数が長いということが理解出来ます。
3. 平均給与が高い会社は?
こちらも有報の記載はホールディングス(HD)の数値が含まれますので、参考程度として下さい。
HDなら管理部門のみで、工場で働く人などが含まれず、その給与が全体平均よりも高くなります。
HDって何?という方はこちらもご覧下さい。
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平均給与ランキング
1位:マンダム:832万円
2位:太陽HD:807万円※HD
3位:ハリマ化成グループ:776万円※HD
1位のマンダムはHDではないので、純粋に給与が高い会社と言えます。
4位以降は関東電化工業の736万、新田ゼラチン・第一工業製薬の733万と続きます。
逆に平均年収が低い会社は下記です。
平均給与ワースト3
1位:三光合成:431万円
2位:ダイキアクシス:471万円
3位:大倉工業:509万円
平均:640万円
まとめ
本日は売上300億~1,000億円の中堅化学メーカー53社を分析しました。
まとめると、
- 対象の中堅化学メーカーは53社
- 収益性・安定性・成長性で見ると、ベスト5は上位から①扶桑化学、②積水樹脂、③タカラバイオ、④太陽HD、⑤ノエビアHD
- 社長の年齢や在任期間で見ても面白かった
- 平均勤続年数が平均で16年と長く、トップは残業ゼロで有名な未来工業
- 平均給与はマンダムがトップだった
就活時に知っていた会社は53社中10社もなかったと思います。
改めて見ると、もうちょっと分析をしていたらなぁと思う気持ちもあります。
これから就活や転職という方は、上場会社ならしっかりと情報を整理することを強くオススメします。
意外にも5年連続で増収増益の会社はありませんでした。
調べてみないとやっぱり分かりません。
動画版はこちらです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。