キラリと光る中堅化学メーカー43社を経理マンが分析してみました。
今回のきっかけは、自分自身の過去の9年前の就活です。
私は文系で化学メーカーを中心に新卒の就活をしており、 その当時は化学メーカーならどこだろうととにかくESを出していました。
かろうじて売上ぐらいは見ていたかもしれません。
しかし、ESが通らなければ企業分析する意味もないと考えていました。
そして選考に進んで、上場会社だとしても、その会社の決算書を見たことがほぼありませんでした。
それが影響したのかは分かりませんが、同じ大学の知り合いと比較すると7月という遅くまで就活をやっていました。
結果として内定は貰えましたが、今大学時代に戻るならどんな視点で分析が出来るかということで、経理マンとして3社で働いた視点を元に中堅の化学メーカーを分析してみます。
就活生の方向けのまとめ記事はこちらにもあります。
www.finance-accounting-value.com
その時に戻れるならという視点だと、会社の大きさってどうやって図るという記事もあります。
www.finance-accounting-value.com
結論:43社でポイントが一番高かったのは日産化学
まずは中堅の定義を考える
今回、ターゲットとするのは、中堅化学メーカーです。
大手と中堅を、どのような項目で分けるかというと、今回は売上高で判断します。
上場会社は約3,800社あり、 化学セクターには約200社ちょっとあるようです。
これにはライオンやコーセーなど、ケミカルだけというよりも、BtoCの生活用品や化粧品といった領域の会社も含まれています。
この200社を売上高で見てみることにして、上位10%の20社は中堅とは呼ばないと定義します。
つまり、今回扱うのは、売上高で並べて21位以降の会社です。
ランキングはユーレットのサイトから確認しています。(もちろん、本決算が発表される度に順位が変わる可能性はあります。)
ちなみに20位はカネカの6,015億円です。
(カネカと言えば、2019年に社員の転勤問題で炎上した会社でもあります)
21位がクラレの5,800億円なので、売上6,000億円以下の会社となります。
では、下はどこまで見るのかと考え、1,000億円以上の会社をターゲットにすることにしました。
上場会社全体で見ると、売上高は300億円を超えていると、大きい会社と言えそうです。(単純に並べて、中間の順位の1,800位くらいが約300億円だから)
化学メーカーで売上300億円以上で見ると、128社もあるので、今回は1,000億円~6,000億円の43社を調査対象にしました。
以下、20の観点から43社を調べました。
どういう観点がある?
企業を決算書の情報から行う財務分析には、3つの観点があります。
- 収益性:利益が稼げているかという観点
- 安定性:財務が安定しているかという観点
- 成長性:これから伸びるかという観点
化学メーカーは、収益性と安定性は高いという会社が多いでしょう。
継続的に成長出来るかというのが今後の課題です。
今回、決算書から分析した情報は下記です。
①ポイントとして評価した点
- 収益性:当期純利益の金額の大きさ
- 収益性:当期純利益率(売上と当期純利益の比率)
- 収益性:5年間の平均当期純利益額(有報記載の年数で計算、IFRSや決算期変更もあるので、全ての会社で5年間にはなっていません)
- 収益性:従業員一人あたり当期純利益
- 安定性:総資産
- 安定性:自己資本比率
- 安定性:現預金
- 成長性:時価総額
- 成長性:5年連続で増収増益している?(一年でも売上や当期純利益が減少していたらNG)
- 成長性:5年間での売上の伸びの額(5年前と直近を比較してどれだけ伸びているか)
- 成長性:5年間での売上の伸びの%
- 成長性:5年間での当期純利益の伸びの額
- 成長性:5年間での当期純利益の伸びの%
これらの上位3位の会社にそれぞれポイントを加算します。
1位なら3ポイント、2位なら2ポイント、3位なら1ポイントとします。
これで最大で39ポイントで、どの会社が一番優秀かを見ます。
個別のランキング、ベスト3位までと最下位と平均を記載
1. 収益性:当期純利益の金額の大きさ
1位:日産化学:308億円
2位:コーセー:267億円
3位:デンカ:227億円
最下位:クラレ:20億円の赤字
43社平均:111億円
2. 収益性:当期純利益率
売上と当期純利益の比率
1位:日産化学:14.9%
2位:日油:11.7%
3位:小林製薬:11.4%
最下位:クラレ:△0.4%(赤字)
43社平均:5.4%
3. 収益性:5年間の平均当期純利益額
1位:クラレ:324億円
2位:ダイセル:322億円
3位:JSR:293億円
最下位:アース製薬:16億円
43社平均:126億円
※直近だけなら赤字ですが、
5年間ベースで1位がクラレ
4. 収益性:従業員一人あたり当期純利益
1位:日産化学:1,011万円
2位:日本ゼオン:537万円
3位:大阪ソーダ:534万円
最下位:アース製薬:38万円
43社平均:281万円
5. 安定性:総資産
1位:クラレ:9,911億円
2位:JSR:6,777億円
3位:ダイセル:5,980億円
最下位:ファンケル:945億円
43社平均:2,778億円
6. 安定性:自己資本比率
1位:ポーラ・オルビスHD:84%
2位:東亞合成:78%
3位:東京応化工業:78%
最下位:アース製薬:37%
43社平均:60%
※37%でも、充分高いと言える
7. 安定性:現預金
1位:ライオン:1,104億円
2位:コーセー:975億円
3位:ニフコ:901億円
最下位:藤森工業:61億円
43社平均:400億円
8. 成長性:時価総額(投資家の期待)
1位:コーセー:9,070億円
2位:小林製薬:8,082億円
3位:日産化学:8,077億円
最下位:積水化成品工業:272億円
43社平均:2,507億円
9. 成長性:5年連続で増収増益している?
1位:日産化学
1位:ファンケル
※43社の中で、該当は2社のみ
10. 成長性:5年間での売上の伸びの額
※5年前と直近を比較
1位:コーセー:843億円
2位:JSR:835億円
3位:アデカ:814億円
11. 成長性:5年間での売上の伸びの%
1位:タキロンシーアイ:191%
2位:クミアイ化学工業:169%
3位:ファンケル:139%
12. 成長性:5年間での当期純利益の伸びの額
1位:トクヤマ:1,204億円
2位:タキロンシーアイ:104億円
3位:ファンケル:95億円
※トクヤマは特殊要因あり
13. 成長性:5年間での当期純利益の伸びの%
1位:ファンケル:2,000%
2位:タキロンシーアイ:485%
3位:クレハ:280%
これらの総合ランキングが下記になります。
①日産化学:13ポイント
②コーセー:10ポイント
③ファンケル:8ポイント
1位は、利益が稼げる会社として日産化学が飛び抜けていました。
高い利益率と少ない人員で稼いでいるという、しかも5年連続で増収増益なので、文句のつけようがない成績でした。
ちなみに、日産化学という名前ですが、日産自動車との資本関係はありません。
主力事業は農業化学品事業で、元々は化学肥料の会社として創業された会社です。
その他、ディスプレイ材料や半導体材料も強みとして持っています。
売上高は2,000億円ほどで、化学業界で36位の位置ですが、当期純利益ベースなら16位と稼ぎで見ると、凄さがより分かる会社です。
2位は、売上の伸びや現預金、時価総額などで優秀だったコーセー。
主力は化粧品事業で、サブとしてコスメタリー事業も持っています。
コスメタリーとはシャンプーやコンディショナーなどのトイレタリー製品などを指し、コンビニやドラッグストアでも販売されています。
3位は、こちらも5年連続増収増益だったファンケル。
利益の伸びも特徴的でした。
主力事業は化粧品で、こちらはサプリなどの栄養補助食品事業が第2の柱です。
2位と3位は化粧品メーカーでもあり、インバウンドは減りそうですが、今後も需要はあるでしょうし、さらに成長していきそうな分野と言えます。
その他の観点
以上からランキングを作成しましたが、それ以外にも調べたポイントがあるので紹介します。
これらは順位をつけるのは難しいですが、重視すべき論点だと個人的に思う項目です。
- 代表取締役の年齢
- 取締役会の平均年齢(社外と監査役を除く)
- 取締役会の女性比率と女性の人数
- 連結子会社数
- 設立が古い会社
- 大株主の制約の有無
- 経理出身の社長っている?
1. 代表取締役の年齢
1位:小林製薬:81歳
2位:藤森工業:76歳
3位:日本パーカライジング:73歳
最も若い:アース製薬:49歳
43社平均:65歳
代表取締役の年齢が高い会社と、そうでない会社、選びたいのは若い人が社長の会社ではないでしょうか。
アース製薬はなんと40代の社長です。
最も高齢の会社とは30歳も差があるという結果になっています。
会長が高齢と言えば、化学業界の利益ナンバーワンの信越化学工業(当期純利益3,140億円)の94歳という例もあります。
2. 社内の取締役の平均年齢
1位:日本パーカライジング:66歳
2位:藤森工業:65歳
2位:デンカ:65歳
2位:大日精化工業:65歳
最も若い:コーセー:56歳
43社平均:62歳
こちらは代表取締役でも3位だった日本パーカライジングが66歳でトップに。
平均ということで、それほど大きな差は生まれにくいとは言え、やはり60歳超えが当たり前という感じ。
60歳以上が43社中39社なので、出来ればもう少し若返りをしたほうがいいのではと勝手に思ってしまいます。
3. 取締役会の女性比率と女性の人数
1位:コーセー:28.6%(14人中4名)
2位:小林製薬:27.27%(11人中3名)
3位:日本曹達:18.2%(11人中2名)
3位:ポーラ・オルビスHD:18.2%(11人中2名)
最下位:0%→男性のみの会社が
日本ゼオンほか全12社
43社平均:8%(1名)
女性の取締役はいないという会社も、全体の約3割程度あります。
社外取締役も含んだ数値なので、その会社の内部出身で女性取締役はかなり少ないということです。
有報(有価証券報告書)に女性比率が記載が必須なのは、女性の取締役が少ないからで、それでも男性しか取締役に選ばないという会社は少し気になります。
4. 連結子会社数
1位:関西ペイント:111社
2位:クラレ:77社
3位:東洋インキSCHD:62社
最も少ない:東京応化工業:7社
43社平均:35社
1位となったのは、塗料業界でナンバー2の関西ペイントの100社超えという結果に。
最も少ないのは7社の東京応化工業です。
間違いなく連結子会社は少ない方が、経理としては楽です。
100社以上の子会社を連結すると考えただけでも、嫌な気持ちになってしまいます。
5. 設立が古い会社
1位:日産化学:1887年(133年)
2位:ライオン:1891年(129年)
3位:サカタインクス:1896年(124年)
最も新しい会社:ダイキョーニシカワ
:2007年(13年)
43社平均:創業から86年
意外にも?優秀なランキングで1位になった日産化学が歴史が最もあるという結果に。
ダイキョーニシカワは2007年ということで、こんなに新しい会社とは知らなかったです。
平均はなんと86年、やっぱり化学メーカーは歴史があるようです。
6. 大株主の制約の有無
ファンケル:キリンHDが32.8%所有
タキロンシーアイ:伊藤忠が51%所有
日本ゼオン:横浜ゴムが10.4%所有
JSP:三菱ガス化学が53.7%所有
ポーラ・オルビスホールディングス:社長が58%超
住友ベークライト:住友化学が22%
コーセー:小林一族の取締役3名で33.84%
アース製薬:大塚製薬が20.5%
東洋インキSCホールディングス:凸版印刷が23%
ダイキョーニシカワ:西川ゴム工業16.7%
こちらは特殊事項としてまとめます。
こういった大株主の所有割合が高い会社は、オーナー企業だったり、親会社の顔色を伺うことが多かったりと、個人的にはあまりオススメはしません。
傍から見れば不可解な決定が、会社内で起こりうる可能性が高いとも言えるでしょう。
中小企業ならそれでいいと思いますが、上場会社でそういった特定の株主の影響が強すぎるのは褒められることではないです。
もちろん、株主の比率は変動する可能性はあることはあります。
7. 化学メーカーに経理出身の社長はいるの?
最後が自分が経理マンなので、気になった項目です。
有報の役員の状況の経歴で、経理部長などと書かれている社長は1名だけいました。
それが東亞合成の高村社長でした。(管理部財務グループリーダー)
もちろん、経歴の部分には~部長というところからしか書かれないので、最初は経理部で3年だけやって、その後営業本部長になった人は経理出身と判定が出来ません。(これだけ見ると、営業出身に見える)
また経営企画部長という場合は、経理出身とはカウントしませんでした。
結果、43社で1社しか該当しないので、経理出身の社長はかなりレアと言えるでしょう。
工場長だったり、研究開発のトップ出身のケースもありましたし、王道の営業出身の社長もパターンもありました。
まとめ
本日は少し長くなってしまいましたが、中堅化学メーカー43社の比較をしてみました。
まとめると
- 売上高が1,000億円~6,000億未満を中堅と定義
- 13コの項目で、収益性・安定性・成長性を見た
- 日産化学、コーセー、ファンケルの順で優秀と言える
- その他の観点からも面白い結果となった
- 経理出身の社長は非常に少ない
就活時には日産化学はESは提出したかもしれませんが、ほとんど記憶にありません。
今、就活するなら日産化学に全力を出すでしょう笑
上場していれば、本当に様々な情報が有報や短信ほかの資料から読み取れます。
就活は、そんなに企業分析の時間を取れないとは思いますが、自分なりの視点で会社を見てみると、社会人になってからもそれが役に立つと思います。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
【今回分析対象とした43社】
最初の数字は化学業界での売上のランキングです。
21 クラレ:5,758億円
22 JSR:4,719億円
23 ダイセル:4,128億円
24 関西ペイント:4,068億円
25 デンカ:3,808億円
26 ライオン:3,475億円
27 コーセー:3,277億円
28 日本ゼオン:3,219億円
29 トクヤマ:3,160億円
30 ADEKA:3,041億円
31 日本触媒:3,021億円
32 ニフコ:2,880億円
33 東洋インキSCホールディングス:2,798億円
34 セントラル硝子:2,224億円
35 ポーラ・オルビスホールディングス:2,199億円
36 日産化学:2,068億円
37 住友ベークライト:2,066億円
38 アイカ工業:1,915億円
39 アース製薬:1,895億円
40 エフピコ:1,863億円
41 ダイキョーニシカワ:1,822億円
42 日油:1,809億円
43 日本化薬:1,751億円
44 森六ホールディングス:1,707億円
45 小林製薬:1,680億円
46 サカタインクス:1,672億円
47 三洋化成工業:1,555億円
48 大日精化工業:1,551億円
49 高砂香料工業:1,524億円
50 東亞合成:1,449億円
51 日本曹達:1,447億円
52 クレハ:1,423億円
53 タキロンシーアイ:1,394億円
54 積水化成品工業:1,361億円
55 コニシ:1,351億円
56 ファンケル:1,268億円
57 日本パーカライジング:1,190億円
58 藤森工業:1,143億円
59 JSP:1,133億円
60 大阪ソーダ:1,054億円
61 クミアイ化学工業:1,034億円
62 東京応化工業:1,028億円
63 石原産業:1,010億円
また、別の業界についてもまとめてみようと思います。
就職・転職最前線2021年版 株式投資の視点で見るこれから10年繁栄する会社 衰退する会社 化学・石油業界編 2/2
化学業界で言えば三菱ケミカルHDの記事と、日本触媒と三洋化成の経営統合中止の記事もあります。
www.finance-accounting-value.com
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ここまでお読みいただきありがとうございました。