ネガティブなニュースであると同時に、あまり意味もないのかもしれないニュースです。
父と娘の経営バトルで有名な大塚家具の、大塚久美子氏が社長を退任するというニュースを経理マンの視点で解説します。
退任に伴って、大塚家具の株価がストップ高になるなど、市場としては好感を持ったとも解釈は出来ますが、退任そのもののインパクトは小さいのではと考えます。
その理由は筆頭株主の視点で見ると、 よく分かります。
後半では、とある眼鏡屋さんの例を取り上げ、共通点についても紹介します。
是非、最後までご覧下さい。
結論:任期途中での退任はネガティブ、しかし株主視点で見るとまた違って見える
大塚家具の歴史
まずは大塚家具の歴史から紹介します。
ご存知の方も多いかと思いますので、サラッと簡潔に。
創業は、1969年に大塚勝久氏によってなされました。
その後、順調に拡大を続けたのですが、2009年頃から潮目が変わります。
1994年に娘である大塚久美子氏がみずほ銀行での勤務を経て、大塚家具に入社します。
その後、1996年に28歳の若さで取締役に就任します。
しかし2004年には取締役から外れ、顧問という立場になります。
その後2009年に大塚久美子氏が社長、父が会長になり、2014年から父と娘の親子対決となってしまいます。
結果、娘の大塚久美子氏が勝利し、父は会社から追放されることとなります。
しかし、業績は依然として低空飛行を続けているという顛末です。
業績が下降したことに伴い、2017年には貸会議室などを運営するティーケーピーが出資、そして2019年末にはヤマダ電機が大塚家具に出資、連結子会社化しています。
ちなみに、父の勝久氏と息子の勝之氏は、新会社「匠大塚」を立ち上げて、いわばライバル会社として業務を行っています。
業績はどうなっていた?
5年間の業績推移です。
売上・利益ともに下降線という非常に苦しい状態です。
赤字の推移で言うと、46億→73億→32億→78億と、ここ4年間で230億円の赤字です。
この4期連続で営業キャッシュフローが赤字になると、企業の存続の前提に黄信号が灯ります。
これを2年内に解消しなければ、上場を維持することが出来なくなってしまいます。
さらに当期の予想も赤字となっていました。
つまり、来期(2021年5月からの1年間)黒字にすることが当面の目標ということです。
こういった赤字を受けて、救世主として登場したのがヤマダ電機です。
ちなみにヤマダ電機は家電量販店業界でトップであり、連結の売上は1.6兆円、当期純利益は246億円という大企業です。
そんなヤマダ電機が株主となったことで、取締役会メンバー構成も変化していました。
ヤマダ電機でも社長を務める三嶋恒夫氏が、大塚家具でも代表取締役会長に就任していました。
社長辞任の裏側?
そこから社長の大塚久美子氏が辞任し、三嶋氏が社長を務めることになりました。
気になったポイントは、これが12月1日付けだったというところです。
当たり前のことですが、意外と見落としやすいのは、役員の任期です。
ここが本日の一番のポイントです!
取締役の任期は短い場合は1年間で、その始まりと終わりは株主総会です。
大塚家具は4月決算に変更し、株主総会が7月の終わりに開催されています。
その7月末の株主総会で、1年間はこの取締役の体制で行きますと決めたにも関わらず、このタイミングで辞任するということです。
理由については、今期は赤字だけど、来期は黒字になるような気がする。
そして、過去の業績についての責任を明確にするために辞任するとしています。
業績責任を明確にするために辞任するというのは、理由にはなっていないように見えます。
8月の始めから、11月の終わりまでの4ヶ月で退任するということは非常に印象は悪いです。
しかも10月の終わりにリリースを出しているので、総会後から3ヶ月しか経っていません。
この短い期間に何があったのかは分かりませんが、このような任期の途中での辞任というのはネガティブにしか捉えることが出来ません。
もちろん、たらればには意味がない
このニュースに対する反応で一番多いのは、やっぱり辞めるのかというものです。
そして父親があのまま経営を続けていたら、こうはならなかったという「たられば」思考が非常に気になりました。
もちろん、たらればが意味がないということを分かった上で、やっているのでしょうが、個人的にはなんだかなぁと思ってしまいます。
経営にも「もしも」はないのです。
もしかしたら、大塚久美子氏でなければもっと赤字になっていたかもしれません。
その世界線は誰にも分からないのです。
しかし、経営の責任は誰にあるのかという観点は非常に重要です。
去年(2019年)の12月末にヤマダ電機が、大塚家具の筆頭株主になって51.73%の株式を取得した時点で、ヤマダ電機に責任があるのです。
社長を誰にするかもヤマダ電機が決めて、もし結果が出なくて辛いのは社長の大塚久美子氏ではなく、ヤマダ電機なのです。
ヤマダ電機側としても、大塚久美子氏を社長に据えるよりも、自社の三嶋氏に任せた方が、より安心なのではと思います。
そういう意味では、久美子氏が退任する方がやりやすい面はあるでしょうし、次の総会で久美子氏を退任というシナリオもあったでしょう。
同じようなことが、他の上場会社でもあった
任期途中での退任にはネガティブな意味があると説明しましたが、他の上場会社でも同じようなことが確認できます。
その会社はジンズホールディングスです。
この会社は、JINSというメガネ屋さんの会社です。
ジンズホールディングスは、監査役が2名同時に退任するという中々見ないパターンです。
有報からこの2名の略歴を確認してみます。
①前田氏
②大野氏
共にメガバンクの銀行出身で、そこから監査役というパターンです。
そして任期に注目すると、両者とも2019年11月から4年間となっているのに、なんと1年で2名とも退任するという前代未聞の事態です。
そもそも取締役は任期が短いと1年なのに、監査役はなぜ4年なの?と思われる方もいるかもしれません。
この理由は監査役というのは、会社や組織が不正やミスを起こさないようにコントロールする役目を持っているからです。
不正を見つける役割の人間の任期が1年なら、すぐに交代させれば、不正がバレないと考える経営者もいるでしょう。
しかし、ジンズホールディングスでは4年契約の監査役が何故か1年で退任、しかも2名も揃って退任するのですから、何らかのネガティブなことが内部で起きていると邪推されても仕方がありません。(理由には一身上の都合としか書かれない)
このように取締役や監査役の任期に着目してみると、新たな発見があるかと思います。
任期途中での退任はネガティブであるというのが、本日の最重要ポイントです。
まとめ
本日は、大塚家具の社長交代について解説しました。
まとめると、
- 創業者の父を追い出した久美子氏だったが、業績は厳しいままだった
- その大塚家具を助けたのが、ヤマダ電機
- 1年契約なのに4ヶ月での久美子氏の退任はネガティブ
- 経営にもしもはない
- 経営責任はヤマダ電機にあるので、ヤマダ電機としてはやりやすいのかも
- ジンズホールディングスでも4年契約の1年で、監査役が2名退任という前代未聞の事態が起こっていた
- 役員の任期途中での退任はネガティブ
家具という切り口では、ニトリと比較されることもある大塚家具。
確かにニトリと比較すれば、大塚家具は弱い部分があるのかもしれない。
経営者には結果が全てとよく言われるが、 それでも久美子氏には挑戦を続けてほしいと個人的に思う経理マンでした。
「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス
動画版はこちら
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