非上場の官報の見方をdivの例から紹介
本日は、マコなり社長の株式会社divの官報を例に決算の見方を紹介します。
突然のYouTubeの1ヶ月休止と、UNCOMMONという新たなサービスを発表したマコなり社長。
SNSを見ると、マコなり社長が代表取締役を務めるdivの官報のBSで盛り上がっていました。
これを例に、非上場の会社はどうやって数値を見るのかを経理マンが解説します。
マコなり社長の会社はヤバいのか、結論から先に言うとそんなことはないです。
是非、最後までご覧下さい。
結論:別にヤバくはない、赤字を怖がるな
そもそもの経緯
まずは経緯から簡単に紹介します。
マコなり社長は説明不要だと思いますが、YouTubeチャンネル登録者90万人超のトップクラスのビジネスYouTuberです。
マコなり社長の本業は、プログラミングスクールのテックキャンプの運営と人材紹介の会社の社長です。
スクールの規模は日本最大級としていて、これまでに2万人以上が受講したとしています。
そんなdivの官報記載のBSが悪い意味で注目されていたので、実態を見てみます。
官報とは?
そもそも官報とは?という方もいると思うので、簡単に説明します。
官報とは全ての株式会社が公開すべき決算情報を指します。
例え小さい会社だとしても、決算日時点のBSの公開が必要です。
ただし、現実には公開していない会社もたくさんあります。
上場会社にも公開義務がありますが、上場会社なら決算短信や有報(有価証券報告書)などがあるため、そちらの方が情報が充実しています。
つまり、主に上場会社の子会社や非上場会社の財務情報として、官報は利用されるということです。
マコなり社長のdivのBS
早速BSを見てみましょう。
ここで前提として、決算の数字の解釈は無限大です。
同じ数字を見て、この会社は危ない!と考える人もいれば、普通の会社だなと感じる人もいます。
万人に共通する指標はなく、特定の個人を攻撃する意図はありませんので、ご了承下さい。
BS(貸借対照表)はある地点での数字となります。
この株式会社divのものであれば、2019年12月31日時点です。
つまりちょうど1年前の2019年の情報ということです。
divは12月決算で、1月スタートの12月終わりの会社となります。
2020年の成績は3月末までには、公開されるはずです。
BSの資産が21.7億で、流動資産が14.3億で、固定資産は7.4億円です。
流動資産には現預金などの大切なキャッシュが含まれます。
divのビジネスモデルは在庫がなく、売掛金もそれほどなさそうなので預金が大部分を占めそうです。
固定資産は恐らくスクールの教室の資産等が多いと思われます。(教室は賃貸物件でしょうが、内装や机などにお金をかけるはずでそれが固定資産です)
負債の部を見ると、12億円の流動負債と6億の固定負債です。
流動負債とは1年内に支払うべきもので、銀行からの借入や外注している費用だったりがあります。
固定負債は恐らく長期の借入金が多いと思われます。
純資産の部を見ましょう。
利益剰余金を見ると、約5億円のマイナスです。
つまり、創業から約8年での累計の利益が5億円の赤字ということです。(※厳密には資本金などを減らし、利益剰余金を増やすという処理があります)
そして2019年1年間の利益が1.6億円の赤字だったことを意味します。
これだけを見て、反射的にdivは赤字だからヤバいは早計です。
BSから得られる情報はこれくらいで、これだけを見て会社がヤバいという結論には私はなりません。
赤字の理由は広告費?
なぜdivは赤字なのかについては、PLの最終結果である当期純利益しか見えないので、推測しかありません。
スクール事業がメインなので、単純なPLでは黒字を出すような設計にしていると予想します。
講師の給与や、教室の家賃などの費用以上に売上(受講者)がないと、ここまで拡大することは出来ません。
もちろん、一つの教室に何名以上申し込まないと黒字にならないという数値はあるでしょうが、それはクリアしているのだろうと思います。
恐らく広告費を多く使っているのでしょう。
広告をたくさん使い知名度を上げることで、集客を優先しているのではと考えます。
今は赤字だとしても、将来的にそれ以上の利益を生み出せばいいだけで、実は上場会社でも赤字の会社はたくさんあります。
divは今年上場するかもしれないので、上場会社の利益を見てみましょう。
ベンチャーの財務諸表は赤字が多い?
クラウド会計サービスなどを展開するマネーフォワードも上場から赤字が続いていますし、同業のfreeeも赤字です。
freee
ただし、どちらも売上では拡大を続けているというのがポイントです。
これには広告費をある程度使って、拡大を優先する戦略という点でdivと共通しているかもしれません。
名刺管理サービスを展開するSansanも上場時には赤字で、そこから黒字に転換したIT系の会社です。
ここまで紹介の3社は、まずサービスを認知してもらうのが重要と考えているはずです。
そして広告費を競合他社が使うなら、自分達も使わないと競争にならない時代です。
それがBtoCのビジネスなら尚更で、良い製品があってもまずは使ってもらうのがスタートです。
そのための赤字は、後で回収すれば良いという判断でしょう。
要するに、上場するまでは赤字が継続していても何の問題もないということです。
非上場だと情報が少ない
ここから赤字でも問題ないなら、じゃあどこを見ればいいのか?という話をします。
まずは1期だけの情報では、会社を見定めるのが非常に難しいです。
少なくとも3期ぐらいの情報がなければ、正確な分析にはなりません。
divの場合は、1期分しかなく、これだけ見てもこんなもんかなという印象です。
3期あれば、どれだけ利益が推移しているかという情報や、そもそも総資産がどれだけ大きくなったかなども分かります。
しかし、divのようなベンチャーだと変化が激しいので、半年でも数値が参考にならない可能性もあります。
逆に、創業して30年が経過するようなメーカーが3期連続で赤字になっていれば、少し危ないとは考えられます。
官報のみで情報を得るなら、創業してからの年数と業種は必ず確認するべきです。
divはどうなる?
最後に、divの未来について少しだけ考えてみます。
まずはビジネススキルを学ぶUNCOMMONです。
これはオンライン型の教育サービスで、家賃の負担がなく利益率は良さそうです。
家賃がないことで、何人以上で黒字という損益分岐点も低そうです。
似たようなスタイルで研修を提供する会社もなく、これが当たれば上場に向けて調子が良さそうです。
テックキャンプもそうですが、よく値段が高すぎるという批判があったりします。
それが本当に不当なのであれば、上場することも出来ないでしょうし、法律によって裁かれるだけでしょう。
これを解決するのも、ある意味上場です。
上場すれば、様々な株主が生まれますが、株主はその会社に利益を求めます。
つまり、株主は利益を求め、ユーザーは自分の利益(価格の安さ)が欲しいのです。
資本主義社会では、この構造が解消されることはありません。
www.finance-accounting-value.com
プログラミングスクールに関しても、スクール事業をメインとして上場している会社はないことから、上場すれば知名度で他のスクールと差がつくでしょう。
非上場の会社の株主に個人でなるのはほぼ不可能で、上場すれば様々な人が株主になるでしょう。
非上場のままなら、どれだけ儲けているかの詳細が不明で、だからこそ叩くなんてやり方が出てしまいます。
実際の会社の実力については上場するまで分からないとしか言えません。
上場すると、時価総額という投資家からの期待値がつくことになります。
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これがあれば、divという会社に対して市場がどれだけ期待しているかが分かり、そこで凄さが実感出来るのではないでしょうか。
もちろん、上場出来るという保証はありません。
IPOを目指すという願望があるベンチャーは山程ありますが、成功確率は10%以下なんてデータもあります。
これは100社あって10社しか上場まではたどり着かないというレベルです。
しかし、divは18億も資金調達したことがあるくらい、期待としては大きいです。
資金調達の額が大きいほど、成長性が高い可能性があり、機関投資家も上場を意識することになります。
これからdivがどうなっていくのかに注目です。
追記
※少しだけ書き忘れていたので、追記
出資なり借入なりを行う側はdivの決算書を入手した上で、判断しています。
売上の伸びや販管費がどれだけかかってるか、さらには教室の稼働状況などのデータも見た上でゴーサインを出しています。
仮にdivの経営が壊滅的になれば、お金を出した自分達が損をするので、リスクとリターンを正確に把握して動きます。
一方、外部の人間は正確な情報を持っていません。
例えば、divの評判が悪いという抽象的な情報のみで、それがどれだけの利益を圧迫しているのか検討も付きません。
全ての投資が成功するわけではありませんが、持っている情報に差があるのです。(情報の非対称性)
始めに結論(マコなり社長の会社がヤバい)ありきで、そこから理由を探すのは人間の本能です。
そして、これはちゃんと理由があるからこうだと思い込んでいるのも人間です。
PV稼ぎも結構ですが、少し残念な気持ちになります。
上場企業となれば、色々な意見が出てきます。
例えば、トヨタは儲けすぎとか、ソフトバンクは気に食わないとかです。
企業が大きくなれば、そうなるとも言えるのだとしたら、divの業績で騒ぐのはまだ早いのでは?と思います。
もちろんdivが倒産しないと断言出来るわけではないし、全ての企業に確実な未来はありません。
しかし、あまりにも結論ありきで話を進めている方が多いように感じてしまいました。
それも執着なのでしょうから、執着ほど怖いものはありません。
本気でdivの業績が不安なら、利用しなければ良いだけで、それ以上に執着するのはなにか別の目的があるのでしょう。
まとめ
本日は非上場の決算の見方としてマコなり社長のdivを紹介しました。
まとめると、
- プログラミングスクールなどを運営するマコなり社長の株式会社div
- divの官報が話題だったが、これだけでは何とも言えない
- 官報は非上場の会社の情報を知るために有効
- ただし最低3期分は見ないと詳細な分析は出来ない
- divが赤字だからヤバいは短絡的、上場するまでに広告費を使って知名度が上がるが赤字がありえる
- ベンチャーなら、半年で状況が変わっていることもあり、より実態がつかみにくい
- 創業してからの年数や業種を見て、活用すべき
- divの価値は上場するまで分からない
昔からマコなり社長の動画は見ていて、本当に面白いです。
とは言え、divが仮に上場しても自分が株主になろうとまでは思っていません。
いつも思うのは、会社にせよ人にせよ100%全て信じることは出来ないので、良いと思った部分だけ取り入れようという姿勢が大事です。
動画版はこちら
ここまでお読みいただきありがとうございました。