不正がきっかけで、決算発表延期というパターンの大企業三菱マテリアルのニュースを調べます。
本日は自称従業員からのタレコミがきっかけで、決算発表を延期することになった三菱マテリアルのリリースを経理マンの視点で解説します。
ちなみに三菱マテリアルも就活の時に、エントリーした会社でもありました。
決算発表延期と言えば、レオパレスの謎についても解説した記事があります。
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まずは三菱マテリアルの11月2日発表のリリースを見て下さい。
事実としては、11月6日に予定していた決算発表を延期するということです。
ここで読者の皆さんに質問です。
ここに出てくるMCCデベロップメント(MCCD社)と、ロバートソン・レディ・ミックス社(RRM社)がどこの国にあるか分かるでしょうか。
このリリース上からはそれさえ分からないのです。
そんな謎を含めて解説していきます。
是非、最後までご覧下さい。
結論:さらなる問題発覚もあり得る展開
三菱マテリアルとは?
まずは三菱マテリアルという会社から紹介します。
三菱マテリアルは、銅製錬、セメント製造、自動車部品の金属加工などを行っている会社です。
不正としては2017年~18年にかけて、製品の品質不正も有名です。
その時の対応の不味さも、日経のニュースなどで指摘されていました。
業績の5年の推移を見ましょう。
直近ベースだと、売上は1.5兆円、当期純利益は730億円の赤字です。
5年間の平均を取ると、売上は1.5兆円、当期純利益は125億円で、近年の利益の落ち込みが気になる推移となっています。
ちなみに売上の1.5兆円は上場会社全体(3,800社)で見ると、111位というかなりの大きさです。
そして前期が大きな赤字であり、気になる当期の成績の予想を紹介します。
売上は前期比で7%の減少で、前期が730億円の赤字で、今期も200億円の赤字を見込むという厳しい状況です。
セグメント毎の数値はどうなっているのかを見てみましょう。
セグメントの数値で見ると、売上は金属事業と高機能製品(自動車、半導体関連)がツートップです。
一方、利益ベースでは金属事業がダントツで、その次にセメント事業となっています。
高機能製品は売上はあるけど、利益が極端に小さく利益率は0.3%です。
金属事業は利益率4.2%、セメント事業は6.3%です。
この高収益のセメント事業で、実は不正が発生していたようです。
最後に従業員数です。
全体の従業員数は約29,000人で、高機能製品と加工事業が人員としては多い構成になっています。
IRリリースの内容
ここから、IRリリースについて見ていきます。
まず、決算発表は延期とし、また新たな予定日は決定次第お知らせするとしています。
まずは最初に述べたように一言だけ言いたいのは、分かりにくいリリースです。
社名しか書いておらず、どこの国にあるのかが分かりません。
日経はアメリカの子会社と書いてくれていました。
例えば、◯◯有限公司とかなら、中国にある会社と分かります。
そうでないなら、リリースに明記してほしいと思いました。
リリースとしては
- 三菱マテリアルの子会社であるMCCD社
- そのMCCD社の子会社のRRM社の自称従業員から匿名で、RRM社の幹部が不正行為を行っていると情報提供があった
- その幹部が自身のコネがある企業から、モノを購入している
そして調査の結果、RRM社と幹部が出資した会社と取引があったことまでは判明しているとしています。
それが公正な取引だったかと、財務諸表に与える影響などを調べているということのようです。
三菱マテリアルの米国子会社
そのMCCD社とRRM社について有報(有価証券報告書)から調べてみます。
まずはMCCD社(MCCデベロップメント社)です。
設立は1988年でアメリカのネバダ州に本社があるようです。
資本金は811,700千ドルなので、104円で換算すると、844億円とかなり大きいことが分かります。
そのMCCD社の子会社としてRRM社があります。
こちらは2012年にMCCD社が子会社化した会社のようです。
セメント事業で製造・販売を、アメリカのカルフォルニアで行っている会社です。
資本金は32,342千ドルで、約34億円とそれなりに大きい会社と言えそうです。
そんなRRM社にて、経営幹部が出資した会社と取引を行っていたということのようです。
つまり、RRM社の偉いポジションにいて、自分の利害関係にある会社を選んで不当に利益を得ていた可能性があるということです。
所謂、利益相反取引ではないかという話でしょう。
利益相反については「ひらまつ」という会社の話でもしています。
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考えられるのは、本来ならもっと低い価格で材料等を購入出来たはずなのに、自分の出資する会社なので、コストがより掛かっていたということです。
しかも、それが従業員を名乗る人物から匿名で情報提供されるくらい、明確にコストが高かった可能性があります。
逆にコストが同業他社と同じくらいだったとなれば、一応問題はなしとも言えます。
会社の役員など意思決定に及ぼす影響が強い人物が、自分と極端に近い関係の会社(例えば、自分の父親が経営する会社とか自分の友人の会社など)と取引する場合には注意が必要です。
もちろん、コスト面などで検討してそこが安いという明確な理由があるのなら、問題はありません。
これは上場する際などに、社長の交友関係のある会社と取引をしていないかというチェックもされる項目となります。
明確な理由がないなら、その取引は止めるべきという結論になることが多いです。(止めれば会社としても利益がより多く出る可能性がある)
少しだけ意味はズレますが、上場会社のキーエンスでは採用の際に「キーエンスの役員・社員と三親等以内(子女、兄弟姉妹、甥姪等)の方はご応募いただけません。」としており、このように親類関係などとの取引は、別の思惑が働くと見られるのです。
決算発表延期の理由は?
最後に三菱マテリアルの対応について見てみましょう。
その通報があったのは8月12日です。
もうすぐで3ヶ月となるタイミングで、まだ調査は終わっていないという状況です。
これには2つの意味があるでしょう。
①RMM社での通報内容の調査が大変である
実際に現地に行って、様々な調査をしているはずですが、恐らくその海外籍の幹部がその行為の違法性を認めるかなど、考慮すべきことは多いでしょう。
そういう風に言われれば、反論してくることも充分に考えられ、きちんとした情報も公開しようとしない可能性すらもあります。
②他の取引でも問題があった?
これは完全に推測とはなりますが、一つの不正から別のもっと大きな不正が見つかってしまうこともあります。
三菱マテリアルのリリースを見ると、他の海外の子会社でも調査をしているとは読み取れません。
もしかしたら行っていて、別の会社でも問題が起こっている可能性もあります。(三菱マテリアルは子会社だけでも161社もある)
RRM社でも、他に不正と思われる事例が見つかり、それを解明するために3ヶ月以上掛けているのかもしれません。
これだけ時間を要しているなら、かなり大きな問題なのではと心配してしまいます。
IRリリースを見るに、該当の会社がどこにあるのかさえ分からないように、あまり情報開示の姿勢はよろしくはないです。
さらに過去の不正の対応等も見ると、より心配度が増してしまいます。
まとめ
本日は、三菱マテリアルの海外子会社の不正で決算発表延期を解説しました。
まとめると、
- 三菱マテリアルのアメリカの子会社で問題が起きたことで、決算発表を延期
- 子会社の幹部が、自分の出資する会社と取引をしていた
- 公平性について確認中だが、従業員を名乗る人物からの通報で恐らく黒
- もうすぐ通報から3ヶ月経つがまだ解決していないことから、さらなるネガティブニュースの可能性もある
IRリリース一つで、その会社の情報公開に積極的かどうかが分かります。
その点では三菱マテリアルには課題があるのかもしれません。
誰だって、不正や失敗は隠したい気持ちはよく分かります。
それでもその隠そうとする姿勢は、誰かが見ているのだと思います。
※12/16追記
無事に調査が終了し決算発表まで完了。
米国の取引はやはり利益相反取引であったことが判明。
影響額は当期純利益に対し3億程度と、三菱マテリアルの規模からすればそこまで大きいものではありませんでした。
過年度の修正もなしのようです。
動画版はこちら
ここまでお読みいただきありがとうございました。