勉強熱心な方ほど、陥ってしまう単体決算の罠について語ります。
本日は、経理を知らない方にこそ見てほしい内容となります。
自分も経理マンになっていなければ、絶対に理解していないであろう、連結決算と単体決算を見る際の注意点を紹介します。
社会人の方でも、間違えやすいポイントとなりますので、是非最後まで見て下さい。
実際に見かけた間違いのパターンから、この記事を作ろうと思いました。
あくまでも勘違いなので、これさえ知れば全く問題はありません。
結論:単体決算の数値を見ると勘違いするから、見ないのが正解
連結と単体の違い
まずは連結と単体の違いを押さえましょう。
以前の子会社が増えるとどうなる?という記事もあります。
www.finance-accounting-value.com
連結というのは、合算という意味です。
つまり親会社Aと子会社Bと子会社C社の、3社を合体させたものが連結決算です。
単体決算とは、親会社Aや子会社Bなど、個別の法人の決算ということになります。
売上で考えましょう。
- 親会社のA社の売上が100億円(A社の単体決算)
- 子会社B社の売上が10億円(B社の単体決算)
- 子会社C社の売上が20億円(C社の単体決算)
これを合算するので130億円になると考えたいところなのですが、そうではないというのが今回のポイントです。
トヨタ自動車の連結と単体
実例で考えましょう。
上場会社は約3,800社あり、連結決算を行っている会社は約3,300社です。
つまり、85%以上が連結決算をしているということです。
言い換えれば、この3,300社には多い少ないはありますが、少なくとも1社は子会社があるとも言えます。
そして連結決算を行っている会社は、連結決算と単体決算を公開することになっています。(ただし、4半期毎の公開ではなく、年に1回の本決算の時のみ)
トヨタ自動車の有報(有価証券報告書)を見ると、連結のPLと単体のPLが公開されています。
こちらが連結で、
次が単体です。
連結の2行目の真ん中の税引等調整前当期純利益と、単体の2行目の経常利益は別物です。
一番下の2019年3月期の当期純利益に注目しましょう。
連結の数値は1,882,873百万円で、単体は1,896,824百万円です。(ともに約1.8兆円です。)
比較するとこの年だけ、単体の方が連結よりも当期純利益が多いのです。
ここでよくある勘違いを紹介します。
連結は合算だから、連結よりも単体の方が利益が多いということは、単体のプラスを子会社のマイナスで打ち消したからだという考えです。
つまり、子会社の利益がマイナスだから、連結の方が成績が悪いと考えることです。
これが勉強熱心な方ほど陥る罠なのです。
連結、単体、どちらも見るという姿勢は素晴らしいのですが、実は単体は見てはいけません。
ダブリを消すという概念
連結というのは、ただ単に合算(合計)するだけではなく、ダブリを消去しないといけないのです。
先程の例を使います。
- 親会社のA社の売上が100億円(A社の単体決算)
- 子会社B社の売上が10億円(B社の単体決算)
- 子会社C社の売上が20億円(C社の単体決算)
この3社を連結したら、売上が130億円という可能性は低く、例えば110億円など単純に合計するよりも、もっと小さくなる可能性が高いのです。
その理由は、親会社↔子会社、子会社↔子会社という取引があるからです。
例えば、親会社の売上100億の中に子会社への売上が9億円含まれていたとしましょう。
すると、逆に子会社は親会社からの仕入れとして9億円発生することになります。
そしてこの9億円の売上というのは、合算された後で相殺されてしまうのです。
売上=(100+10+20)-9=121億円というイメージです。
さらに子会社への売上は、親会社の意思でいくらでも増やせるというのが一番のポイントです。
ビジネスモデルとして親会社がメーカーで、子会社が販売会社というものもあり、これなら親会社はとにかく作った分を子会社に売りまくるというモデルもあります。
つまり単体決算には子会社への売上や仕入れが含まれている可能性が高いので、当てにならないということです。
それなら、影響額を計算して、あるべきに戻したらいいのでは?と思うかもしれません。
しかし、子会社への売上は全ては公開されず、また売上以外にもグループ会社間の取引があるのです。
例えば、親会社が子会社から配当金を受け取る場合などもそうです。
親会社の単体決算上は受取配当金が出て、親会社の利益が増えます。
しかし、これは連結上ではグループ会社間の取引に過ぎず、ダブリとして消去されます。
したがって、影響額は厳密には計算は出来ず、子会社への取引を含んだ形でしか見ることが出来ないのです。
まとめると、グループ会社間の取引(親会社から子会社など)があるので、単体決算は本来よりも売上や利益が膨らんだ状態になっていることが多く、その膨らみ具合も会社によって異なるので、見ると逆に間違った印象を持ってしまうのです。
単体同士の比較も無駄
ここまで連結と単体がある場合なら、連結だけを見ればいいという話をしてきました。
トヨタ自動車で言うなら、連結の数字だけを見て、単体は見ないのが正解ということです。
では、単体同士の比較なら意味があるのでしょうか。
答えはNoです。
例えば、トヨタ自動車と日産自動車を比較したいとします。
この時に有報を見れば、トヨタ自動車の単体決算と日産自動車の単体決算それぞれのデータが簡単に手に入ります。
しかし、先程から述べているように、単体決算には子会社などへの売上が含まれたもので、その子会社への依存度も会社によって異なります。
だから、単体決算同士で比較しても、土俵が違うと言えるので、無意味となります。
単体決算を公開する意味とは?
ここまでを一言で言うなら、単体決算を見てはいけないということです。
もちろん、上場会社の約500社は単体しかないので、その会社は単体を見るしかありません。
ここで言っているのは、連結決算をやっている会社の単体決算という意味です。
では、なぜ単体決算を公開しているのでしょう。
一言で言えば、そういうルールになっているからということです。(少し昔に比べると、単体の情報を会社の判断で一部省略出来るようにはなっている)
経理や開示を実際にやっている現場の人からすれば、単体決算を公開する意味はないと考えている人が多数でしょう。
ただし、連結決算をするためには、単体決算を完成させる必要はあります。
その単体だけの情報を、有報や短信などで公開する意味がないという意味です。
むしろ公開することで、誤解が生まれてしまう可能性があるのです。
経理の実務や簿記を勉強した方であれば、大丈夫かもしれませんが、私も経理をやっていなければ勘違いしていたはずです。
ディスクロージャーという言葉の意味からすれば、初心者にも分かりやすくというのが基本だと思います。
情報を不要に出すことで要らない誤解が生まれるなら、それは廃止すべきではないのかなというのが経理マンの意見です。
まとめ
本日は単体決算は見てはいけない理由を紹介しました。
まとめると、
- 連結とは子会社があること
- 連結は合算ではなく、ダブリの消去が必要
- 単体決算は実態よりも子会社への売上などで膨れて見えてしまう
- だから、連結決算の数字だけを見るべき
- 単体同士で、上場会社を比較するのも無駄
- 情報量が多いことで、無駄な誤解が生まれている可能性がある
- ディスクロージャーは初心者に分かりやすくなので、それなら単体の情報はなしにするべき
近い将来、単体開示もなくなるかなとは予想しています。
その方が有報や短信もスッキリするし、経理マンの負担も減るし、より間違いが少なくなる可能性もあるはずです。
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ここまでお読みいただきありがとうございました。