電通2年連続で大幅赤字、構造改革で対応
本日は、電通が2年連続で赤字でどうなるというニュースを解説します。
12月7日(月)の朝8時に開示された、とある電通のリリースを見て気になりました。
そもそも、なぜ月曜朝の8時に公開するのかも不思議です。(多分、金曜の夜に会議して、土日で資料を作った?)
今年度も赤字で、構造改革が必要と苦しい状況のようです。
なんとなく大きい会社であるイメージがの電通、実態をよく知らない会社でもあります。
電通は広告の会社、それだけではないはずです。
是非、最後までご覧下さい。
結論:赤字だけど、継続的なものではなさそう
電通とはどんな会社?
まずは電通という会社を見てみましょう。
実は電通は持株会社で、ホールディングス体制に今年20年1月から移行しています。
株式会社電通グループという会社が親会社で、広告業の電通などの子会社を動かしています。
子会社数は約1,000社と非常に多く、親子上場として電通国際情報サービスとCARTA HOLDINGSがあります。
HDとは何か?も過去の記事で紹介しています。
www.finance-accounting-value.com
売上高は約1兆円で、国内で151位とかなりの大きさです。
(Yahoo!ファイナンスより引用)
5年間での売上や利益の推移を見てみます。
売上高が一番上にありますが、これは無視しましょう。
IFRS基準を採用しており、ややこしいですが収益が売上高に当たります。
売上の収益は7,000億から1兆円を突破と、5年間で3,000億円も伸びています。
5期前の最終利益は730億円で、利益率10%超でした。
利益のピークは3期前の2017年で、1,000億円を超える利益です。
しかし、直近の2019年は800億の赤字で、急ブレーキがかかったような形です。
この赤字の主な原因は、海外の子会社などの減損700億円です。
電通は英国のイージス社の買収に、4,000億円ほどかけたとされています。
減損とは、 固定資産などの価値を見直して、その資産の価値を落とす処理です。
例えば、10億円で購入したハンコを作る特別な機械が、今後のハンコの需要がなくなるとなれば、その機械が生み出す価値が減少すると考えられます。
そこで、その機械の価値を見直して1億円しかないなら、減損損失として9億円が費用になるということです。
つまり、減損は雑に言うなら会社の当初の期待が裏切られたことを認める辛い行為です。
セグメントで電通の強みを見てみましょう。
電通はセグメントを、国内と海外で分けています。
どちらかと言えば、事業で分ける会社が多く珍しい部類でしょう。(例えば、ディスカウントストア事業とスーパー事業みたいな分類)
国内と海外で分ける理由として、広告事業が大部分を占めているからとしています。
確かに、売上の92%が広告となっています。
次に、国内と海外ではどちらが稼いでいるかを見ます。
売上である収益では、海外事業がややリードで57%と43%です。
ただし利益では国内事業が上回り、利益率は国内が16%、海外は11%と国内の方が優良と言えます。
では、従業員はどのような比率でしょうか。
なんと全体の6.6万人の内、70%の4.6万人が海外事業で働いています。
大株主を見ると筆頭株主は銀行、共同通信社が7%、時事通信社が6%と報道関係の法人との関わりが見て取れます。
今回のニュースはどんなもの?
そんな電通の今回のニュースを紹介します。
12/7にリリースされたのは、当期の業績予想です。
電通は12月決算で残り1ヶ月となっているので、かなり精度の高いものでしょう。
前期が800億円の最終利益の赤字で、今期も240億円の赤字になるというやや衝撃的なものでした。
主な要因として海外事業の事業構造改革を挙げています。
ブランドを統合することで、人員が減少するとしています。
その数は2年間で12.5%なので、先程の人員ベースなら5,800名が退職することになります。
そして海外事業の構造改革費用は、20~21年度に約876億円の計上を想定。
このうち20年度に約561億円を計上し、残りの300億を21年度に計上するとしています。
そして人員整理をすることで、2022年からはコストが547億も減るとしています。
超単純に考えると、2年間で最初の構造改革費用をペイする計算になります。(547×2=1,094億>876億円)
国内事業についてもコメントがあります。
早期退職プログラムを実施し、再編も検討しているようです。
電通の早期退職は個人事業主への移行という、レアなケースでした。
新しく電通が会社を作り、元従業員が個人事業主として電通で取引をするという不思議なスキームです。
230名程度がこの制度を利用し、電通を退職するようです。
これからどうなる?
以上が、今回のニュースです。
電通はあくまでも減損やリストラによって、赤字になっているだけということです。
もちろん、減損をするということは最初の見積もりが甘かったとも言えるわけで、ないに越したことはありません。
今回のポイントとして電通はIFRSを採用しているので、減損した時のインパクトが大きい構造となります。
企業を買収した時に、「のれん」という資産が発生します。
これは将来獲得するはずのキャッシュの期待値です。
日本基準では、のれんを償却します。
例えば、買収した会社ののれんが20億円だとして、20年で償却するなら、1年間に1億円の費用が発生するわけです。
しかし、IFRSではのれんの償却はしません。
つまり、この償却の費用がなくなるので、ここだけを見るとIFRSに移行すれば利益が増えるのです。
ただし、IFRSでも減損のチェックが必要で、これを調べた際に「マズイ」となれば、減損の費用をドカッと計上します。
20億円ののれんでも、全然ダメだとなれば、19億円一気に減損損失として費用を計上することもあるのです。
IFRSを採用していると、このような減損のリスクと隣合わせです。
電通は12月決算なので、来期の始まりがすぐそこです。
来年度も海外事業の費用も300億円近く計上され、国内事業も再編するので、もしかすると3年連続で赤字ということもあり得るでしょう。
それでも、一時的な赤字であり、心配するようなレベルではなさそうです。
ちなみに自己資本比率は26%で、5期前は35%と少しだけ低下していますが、こちらも気にならないレベルです。
電通はかつての労働問題など、イメージはけして良くはありませんが、 業績という点ではまだどうこう言う必要はなさそうです。
これからどうなっていくのかが、気になる会社ではあります。
まとめ
本日は、電通が2年連続赤字と構造改革について解説しました。
まとめると、
- 電通は広告が全体の92%を占める
- 国内と海外では、売上は海外、利益では国内が優秀
- 2年連続の赤字は減損と構造改革が原因
- 構造改革では、海外事業の5,800名を減らす予定
- 2年間で900億近くの費用をかけるが、コストカット効果も大きそう
- 国内も再編する予定
- IFRSだと減損のインパクトが大きい
- 一時的な赤字で、電通の今後はそれほど悪くはなさそう
赤字という言葉だけを聞くとなんかヤバいと思ってしまいますが、決算書を見ればそんなに悲観するものではありませんでした。
意外にも海外が占める割合が多く、減損や構造改革も海外がメインの話でした。
電通に限らず、2021年も決算に与える海外の影響は、より大きくなっていきそうです。
動画版はこちら
ここまでお読みいただきありがとうございました。