売上原価の仕入って実は勘違いしやすい論点があります。
これを書こうと思ったきっかけは、過去に営業の方に質問されたことです。
何度か訊かれたことなので、営業の方や経理ではない部署の方が勘違いしやすいポイントだと思います。
私も経理をやっていなければ、間違いなく勘違いしたままでした。
是非、最後まで見てバッチリと理解しましょう。
結論:平均で考えるという概念を持っていますか?
売上原価のキホン
まずは基本から紹介します。
売上原価を一言で言うなら、仕入です。
りんごを販売する八百屋さんの例で考えましょう。
八百屋さんがりんごを90円で仕入れて、100円で売るとします。
この場合の売上と売上原価の対応関係は下記です。
- 売上100円-売上原価90円=粗利益10円
現実には1コだけ仕入れることは少ないので、100コ仕入れたとしましょう。
この商品の仕入の支払いは90円×100コ=9,000円(+消費税900円)です。
しかし、100コ仕入れて1コしか売れなければ、売上原価は90円だけです。
つまり、大事なのは売上と対応した仕入ということです。
仕入れた時点では、在庫としてカウントされますが、売上原価にすぐになるわけではありません。
あくまでも売上とセットというのが、ポイントです。
PL(損益計算書)という会社の成績表には、いくら仕入をしてもそれがすぐに反映されるわけではありません。
例外として、例えばすぐにダメになってしまう果物があったとして、仕入れたけど全然売れずに腐ってしまったなら、廃棄損としてPL上の費用になってしまいます。
大事なのは、同じ商品を複数の価格で仕入れた場合
ここから本題の勘違いを紹介します。
この勘違いが起こる理由から説明すると、同じ商品だけど、仕入れ価格が異なる場合は取り扱いが違うということです。
先程の例を使います。
90円のりんごを100コ仕入れて、90コさばいたとしましょう。
残りのりんごは10コです。
在庫が少なくなったので、同じりんごを50コ仕入れたのですが、値段が100円に上がっていました。
まずは100円仕入のりんごの売値の問題があります。
この時90円のりんごと100円のりんごは、全く同じ種類という前提とします。
今まで通り100円で販売すれば、本来欲しい10円の利益が取れなくなってしまいます。
営業なら欲しい利益を考えて、売値を付けるのが基本です。
最初の例なら、90円の仕入で10円の利益を取っています。
この欲しい利益の基準は2種類あります。
利益率で考えるなら10%となります。
利益の絶対額なら10円です。
通常は利益率で計算するのが普通でしょう。
ここでも、利益率で考えましょう。
欲しい利益率が10%なので、新しい仕入れ値の100円を0.9で割って、111円が新しい売値です。(0.9で割るのがミソ、仕入れ値に0.1を掛けて計算すると合わない)
売上111円-仕入100円=11円の利益です。(利益率は10%)
さて2タイプのりんごが完成しました。
①売上100円、仕入90円が10コ(先に仕入れたもの)
②売上111円、仕入100円が50コ(後で追加して仕入れたもの)
ここで、お客さんが来て、10コだけ欲しいとなれば、何の問題もありません。
しかし、30コ欲しいと言われた時が考えてほしいポイントです。
平均で考える
そこで考えるべきなのが、売上原価の計算方法です。
まずは、普通に考えてみましょう。
30コが売れるので、先に仕入れた10コと後から仕入れた20コと考えます。
つまり、下記の計算です。
90円×10コ+100円×20コ=2,900円
つまり売上原価は2,900円と考えたいわけです。
しかし、在庫のような棚卸資産の計算方法は、平均原価法という考え方が一般的です。
他にも先入先出法、売価還元法などありますが、まずは平均という概念を理解しておきましょう。
この平均原価法とは、足して平均して計算する方法です。
具体的には、まず1コ当りの値段を平均して考えます。
50コを新たに仕入れた時点で、値段を計算し直すのです。
(90円×10コ+100円×50コ)/60≒98.33円
これが30コ売れるので、
売上原価は98.33円×30コ≒2,950円となるのです。
あれ?なんで売上原価が高くなるんだと思ったかもしれません。(利益が減ってしまう?)
しかし、トータルで見れば同じとなります。
最初の単純計算なら、後の30コが売れると、
100円×30コ=3,000円で、
前に出てきた2,900円と足すと、トータルの売上原価は5,900円です。
一方の平均で計算する方だと、
98.33円×30コ≒2,950円なので、
最初の計算の2,950円+今回の2,950円=5,900円の売上原価です。
勘違いというのは、あくまでも仕入金額が独立したものだと思っていると、思っていた利益が出ないことがあるということです。
しかし、トータルでは同じになるので、実現するタイミングがズレるだけではあります。
思っていたよりも先に多く利益が出るのか、後で多く出るのかという違いが発生する点を理解しておくと、ムダな勘違いが起きません。
平均することの意味
平均すると、単価の変動レンジが小さくなることが分かります。
この例なら仕入そのものの価格は90円と100円で、平均されるので98.33円になっています。
つまり、後々まで見れば結果は同じなのですが、一回当りの取引の利益も小さくコツコツ型になるということです。
会社としては、一喜一憂しにくくなると考えてもよいでしょう。
もちろん、最初の計算も有効な考え方で、個別法と呼ばれる計算方法です。
これで計算している会社もあるでしょう。
ただし、仕入がある度に一つずつ分けて管理するので、仕入が大量になった場合には計算が煩雑になります。
この理由で、平均法へ移行していく会社が多いと思われます。
会社が公表する有報(有価証券報告書)にも、計算方法が記載されています。
これはパナソニックの例で、平均法で計算と書かれています。
このように計算するのは、あくまでも同じ品目という前提です。
例えば、同じりんごでも、「サンふじ」や「つがる」と品種が違えば、分けて計算してすることもあるでしょう。
しかし、一緒くたにしても間違いではありません。(りんごには詳しくないので、明らかに値段が違う例えなら、少しズレているかもしれません)
同じでないと判断したものを、平均して計算しても意味がないでしょう。
例えば、1コ4,000円の高級メロンと1コ100円のりんごを平均しても、実態とはかけ離れているということになります。
在庫がないビジネスなら経理も楽
昔、見かけたのは起業するなら在庫のないビジネスにせよという主張です。
私もそれには同意で、在庫がないビジネスなら経理的にも楽です。
例えば、どのようなビジネスなら在庫がないかと言うと、コンサルティング業なら在庫は不要です。
ただし将来的に在庫がないビジネスに全ての業種がシフトするかというと、それはNoでしょう。
メーカーや商社のビジネスには在庫が必ず必要なので、このような論点を理解しておくとビジネスの中にスッと入れるイメージです。
ちなみに、工場を持つメーカーであれば、売上原価に色々な要素が含まれます。
ある一つの商品を作るための費用と言えるので、工場で働く人の人件費も売上原価の構成要素となります。
つまり、メーカーなら売上原価の複雑性が増すということです。
一方商社なら、仕入れた商品の値段がメインの要素となるので、メーカーと比較するとシンプルな売上原価と言えます。
これについては、商社とメーカーの違いという話でも出てきた話です。
www.finance-accounting-value.com
まとめ
本日は、売上原価のよくある勘違い、実は平均も大事な考えという話をしました。
まとめると、
- 売上原価の基本は仕入
- しかし、売上と対応したものが売上原価であるがポイント
- 同じ商品で、違う仕入れ値になった場合は注意
- 平均で考える場合もあることを理解しておくのが大事
- 平均で考えると、ブレが少なくなっていく
- 会社の判断で、それが同じかどうかを判断する
- 在庫のないビジネスもある
営業をやっていると、普通に仕入れ値のことしか考えないと思います。
まさかそれが過去に在庫していたものと平均されているなんて、思いも寄らない視点ではないでしょうか。
これを知っていると、出来る営業マンと言えるでしょう。
ここまでお読みいただきありがとうございました。