調べてみると、見出しがセンセーショナルなだけというパターンです。
松山三越が全従業員のうち、8割が退職するというニュースがありました。
なぜこんなに退職するのかと疑問に思ったので、三越伊勢丹ホールディングスの有報などから、情報を集めてみました。
三越伊勢丹HDはこれから大丈夫なのか?を経理マンの視点で考えます。
そもそもの百貨店ビジネスが、どうなるのかも少しだけ紹介します。
結論:ニュースだけ見ると、少し勘違いしてしまいそう
日経ニュースの要約
まずは、日経のこのニュースを簡単にまとめます。(無料記事)
松山三越が全250人の従業員のうち、8割に当たる200名が希望退職に応募している。
希望者は全員退職するとのことで、9月から順次退職し、12月末で200名が退職することになる。
2021年秋に新装オープン予定で、その時には売り場などを大幅縮小するため、それに合わせ人員も縮小する。
希望退職者には、退職金を上乗せして支給する。
関係者は、従業員に退職を推奨したわけではなく、あくまでも希望だと語った。
つまり、店舗の売り場面積も縮小するから、人員も整理するということでしょう。
ちなみに、有報によれば、250名の内訳は正社員約80名、臨時従業員が約170名と推定されます。
三越伊勢丹HDの全体の従業員数は、臨時従業員を含めると約21,600名です。
8割という数字だけだと非常に多いように思えますが、全体からすると1%以下の人員に過ぎません。
事実として、三越伊勢丹HDはこの退職に関わるIRリリースを出していません。
新聞の報道としては事実なのでしょうが、三越伊勢丹側も退職に関わる費用も大きくないので、公開しなくて良いという判断でしょう。
それほどまでに百貨店ビジネスは厳しいものなのか、業績を見てみましょう。
三越伊勢丹HDの業績
そんな松山三越を子会社として持つのが、三越伊勢丹ホールディングスです。(以下、三越伊勢丹HDと表記)
百貨店業界のトップ4が下記です。
- 三越伊勢丹HD:売上1.1兆円
- 高島屋:売上9,200億円
- エイチ・ツー・オー リテイリング:売上9,000億円(阪急阪神百貨店など経営)
- J.フロント リテイリング:売上4,800億円(大丸・松坂屋)
三越伊勢丹HDの中身を見てみると、三越・伊勢丹・岩田屋・丸井今井の4つの暖簾があるせいで、非常に複雑に見えます。
以降のデータは、有報や会社発表資料から引用しています。
まずは、三越伊勢丹HDの業績を見てみましょう。
有報から5年分の推移を引用します。
売上は約1.3兆円だったものが1.1兆円まで減少しています。
当期純利益についても、5年前は265億円だったものが、直近は112億円の赤字となっています。
今期の業績予想も、売上は8,200億円と落ち込み、さらに当期純利益は600億円の赤字と非常にネガティブなものになっています。
ホールディングスという形態をとっており、子会社が多いというのがHDの特徴です。
~HDって何?という方は、こちらの記事をご覧下さい。
www.finance-accounting-value.com
三越伊勢丹HDの子会社の状況が下記となります。
連結対象として子会社38社と、持分法適用会社が8社の計44社となります。
三越伊勢丹は3つの収益の柱があり、百貨店業、クレジット金融、不動産業と分かれています。
今回のニュースは、百貨店業の中の株式会社松山三越という会社での希望退職募集のようです。
以前にもあった希望退職
三越伊勢丹HDは2019年の終わりにも、下記のリリースがあり、特別損失を67億円計上しています。
これは前期のPLにも影響しており、これがあったせいで、112億円の赤字になったと言えます。(もしも、これがなければ45億円の赤字だった)
このリリースは株式会社三越伊勢丹の早期退職と、株式会社新潟三越伊勢丹の閉店に伴う退職を合わせた数値となっています。
しかしながら、退職する人数については記載されず、この点はディスクロージャーの観点からは評価は出来ません。(なぜ隠すの?という話)
三越伊勢丹HDの収益バランス
ここからは、先程挙げた3つの柱を見ていきます。
百貨店業、クレジット金融、不動産業の推移はどうかを考えます。
まずは従業員から見てみましょう。
これを見ると、臨時従業員の多さも目立ちますが、それ以上に、百貨店業に携わる従業員が多いことが分かります。
臨時従業員を除外して考えると、下記の割合です。
- 百貨店業:70%
- クレジット金融:5%
- 不動産業 :3%
- その他:22%
では、その多い従業員の分だけ利益は稼げているのでしょうか。
セグメント情報を見ると、それが明らかになります。
直近の本決算の数値は、売上・営業利益が下記です。
- 百貨店業:売上1.0兆円、営業利益22億円
- クレジット金融:売上386億円、営業利益57億円
- 不動産業:売上354億円、営業利益60億円
売上の大半を稼いでいるのは百貨店業ですが、利益ベースではクレジット金融と不動産業が百貨店業の約3倍の利益を出しています。
企業で重要なのは、売上よりも利益なので、これだけを見ると、百貨店業のビジネスは人が多い割に利益が稼げていないとなります。
逆に言うと百貨店に従事する人が多いからこそ、人件費が多く必要なので、利益が少ないとも言えます。
単純に考えるなら、百貨店業の人をクレジット金融や不動産業に回せば、もっと利益が出そうですが、そんなに簡単なものではないでしょう。
では5年前はどうだったのでしょうか。
5年前の数値が下記です。
- 百貨店業:売上1.2兆円、営業利益216億円
- クレジット金融:売上362億円、営業利益56億円
- 不動産業:売上462億円、営業利益63億円
小売・専門店業が5年前にありますが、ここでは一旦無視します。
クレジット金融と不動産業の利益はほとんど変わっていません。
百貨店業の利益が216億円→22億円と大幅に減少しています。
やはり、百貨店で稼げなくなったことが、三越伊勢丹HDの業績悪化の原因と言えそうです。
百貨店ビジネスには限界が来ていると考えるのは自然です。
しかし、ここからどうシフトすればいいのかというのは、非常に難しい決断でしょう。
実店舗を持つことの意味、どうすれば人を使わずに売上を上げることが出来るかを考えていくしかないでしょう。
この流れなら、早期退職をまた募集するだったり、売上が小さい店舗の閉店という判断をしないといけない可能性は高いです。
三越伊勢丹HDは危ない?
最後に、業界トップの売上を誇る三越伊勢丹HDは危ないのかという話をします。
結論はまだ大丈夫です。
まずは利益の積み重ねである利益剰余金は直近の6月末時点で1,500億円あります。
ここから1Qの決算で300億の赤字、通期の予想の成績が600億の赤字と考えると、さらに300億減少することになります。(1,200億円まで減少)
超単純に考えるなら、今期の決算が終わってその後の2年で600億円の赤字を連続で出すと、利益剰余金がゼロになるというレベルです。
3年連続で600億円の赤字を出すかは、実現性が低いかなと感じます。(もちろん、当期が600億円の赤字で済むのかという疑問はありますが)
企業の安定性を図る自己資本比率を見ると、直近決算時点で40%もあります。
自己資本比率は業種による違いもありますが、20~30%あれば合格ラインです。
さらに、株主に対しての配当についても払う予定としており、配当がなしになった場合には黄信号と言えそうです。
以上の点から、財務的にはヤバいレベルではないと判断します。
まとめ
本日は、松山三越の従業員の8割退職のニュースを解説しました。
まとめると、下記になります。
- 松山三越のニュースはやや大げさ
- 全体からすると、1%の人員の削減に過ぎない
- 業界トップの三越伊勢丹だが、業績は下降
- 以前も希望退職を募集
- 百貨店に従事する従業員が全体の7割
- しかし、百貨店は収益が稼げていない
- 5年前と比較すると、なんと10分の1の収益に
- 財務としては、まだ危険水域ではない
百貨店業界をリサーチしたことはなかったので、まとめることで自分自身の勉強になりました。
業界の先行きとしては、あまりポジティブには考えにくいですが、その中でも限られたカードで戦うしかないでしょう。
動画版はこちら
ここまでお読みいただきありがとうございました。