昭和電工の日立化成買収後の新たなビジョン
本日は、12月10日発表の昭和電工の長期ビジョンについて解説します。
昭和電工は大手化学メーカーで2020年4月に、同じ化学メーカーである日立化成を子会社化したことでも有名です。
この長期ビジョンは、旧日立化成とのシナジーがテーマになっています。
改めて昭和電工の小が大を飲む買収と、これからについて書いていきます。
是非、最後までご覧下さい。
結論:利益を重視するビジョン、日立化成も吸収へ
昭和電工とは?
昭和電工は売上高9,000億円の総合化学メーカーです。(日立化成の子会社化する前)
この数値は化学メーカーでは上から数えて10位の数値となり、9位は積水化学の1.1兆円です。
日立化成を子会社化したことで、1兆円企業の仲間入りをするとも言えます。
歴史は1939年創業と化学メーカーらしいもので、社名の由来は昭和肥料と日本電気工業から来ています。
5年間の売上と利益の推移を見ます。
利益については、2015年はわずか9億でしたが、直近の本決算では730億とV字回復したと言えます。
セグメントは6つと多めです。
比較的バランスの良いセグメントで、売上では有機化学製品の石油化学事業と無機事業が2,000億超で大きな柱です。
利益で見るとかなり差があり、研磨材などのセラミックス製品とカーボンの無機事業がダントツで稼いでいます。
次に、稼いでいるのが石油化学です。
利益率で見ると、石油化学6.9%、化学品8.7%、エレクトロニクス5.1%、無機38.8%、アルミニウム1.8%、その他1.4%となっています。
無機がぶっちぎりの稼げるビジネスで、アルミニウムは利益率が低いと言えます。
従業員も見てみます。
石油化学セグメントが少なく、ハードディスクなどのエレクトロニクスが一番多くなっています。
2017年から社長を務める森川社長は技術出身で、この森川氏が日立化成の買収に熱心だったとされています。
当期の成績はどうか?というと、第3Qまで終了し、営業利益の時点で赤字と苦しいものになっています。
赤字の主要因は前年は好調だった無機分野で、黒鉛電極の市況低下で在庫評価の損失が出たことです。
売上でも激減と厳しい展開となっています。
通期の予想は、年間で900億円の最終赤字としています。
日立化成の取り込み効果は3ヶ月分のみで、売上で1,400億円、営業利益で30億円ほどでした。
次年度の2021年12月期から、日立化成の買収効果がフルで現れることになります。
日立化成とは?
そんな日立化成についても業績などを見ます。
日立化成はその名の通り、日立製作所が作った会社です。
日立製作所は親子上場の会社として、日立化成・日立金属・日立建機があり、今回日立化成を売却することを決めました。
売上高は6,300億円程度と昭和電工よりかは小さいものの、化学メーカーの中ではトップ20位に入るくらいの大きさです。
直近の本決算では、160億円の当期純利益で、ピークは2017年3月期の400億円です。
5年間の推移だけを見ると、売上は伸びていますが、利益面では徐々に下がるという少し気になる動きです。
セグメントも見ます。
機能材料と先端部品・システムという2つに分かれています。
売上が大きいのは先端部品ですが、営業利益は80億の赤字となっています。
この2つだけでは分かりにくいので、さらに細分化したものを見ます。
売上のみの数字ですが、機能材料セグメントは電子材料(半導体用エポキシ封止材など)と配線板材料が柱であることが分かります。
先端部品・システムは、モビリティ部材と蓄電デバイス・システムが柱です。
昭和電工に買収されたことで、20年10月から昭和電工マテリアルズと社名を変更しています。
統合のきっかけ
昭和電工が買収を発表したのは、2019年12月でした。
買収の経緯としては、日立化成が日立製作所の手から離れるとなり、多くの化学メーカーが買収の意思を見せました。
三井化学も熱心だったようですが、正式なオファーには至らず。
同じ化学メーカーとしては、日東電工も入札に臨みました。
結果、一番高いオファーを出した昭和電工が勝ち、最終的にTOBで9,600億円で買収することになります。
この約1兆円という買収価格が、かなり大きいものでした。
さらに時価総額でも昭和電工は3,300億円に過ぎず、日立化成の値段が9,600億円なので、小が大を飲むと表現されたのです。(日立化成の時価総額は8,000億程度だった)
日立化成ののれんは約6,000億円で、20年で償却し昭和電工は毎年300億円ずつ費用が発生します。
単純な売上や利益は昭和電工が上回ってはいましたが、それ以外の部分では日立化成が大きかったのです。
そもそもそんな大きな日立化成を、なぜ日立製作所は売却しようとしたのでしょう。
一言で言えば、日立製作所の選択と集中という考えです。
日立金属と日立建機も、それぞれ外部に売却する予定となっています。
さらに、日立化成の2018年の検査不正も売却を加速させるものだったでしょう。
10年以上続いた不正もあり、担当者レベルではなく組織としての関与さえあったとされます。
フォーカス戦略―「選択と集中」で収益力を高める7つのステップ
小が大を飲むと言えば、日本板硝子の英国のピルキントン買収も、売上が自分達の会社よりも大きい会社を買収するというものでした。
これから
前置きが長くなりましたが、今回の昭和電工の中期経営計画を見ます。
これは長期ビジョンとして、一部は2030年までの大きな目標となっています。
昭和電工と日立化成の良さを活かし、稼げない事業は売却も視野に入れているようです。
そして注力する事業として、半導体材料を挙げています。
昭和電工と日立化成それぞれ強みを持っている分野で、シナジーが生まれるとしています。
昭和電工は川中、日立化成は川下の位置にいるので、上手く融合出来ると考えているということでしょう。
数値目標としては、売上高は2025年に1.6兆円、2030年には1.8兆~1.9兆円を目指すとしています。
単純に昭和電工と日立化成を合算した数値が1.2兆円なので、やや保守的とも言えるかもしれません。
EBITDAは現在900億円で、2025年には3,200億円とこちらはかなりの改善で、利益重視の目標にも見えます。
EBITDAは、簡便的には営業利益+減価償却費で計算が出来ます。(つまり減価償却費を除いた営業利益)
そしてここが一番の注目ポイントで、2021年には昭和電工と日立化成の2つの会社の組織を実質統合するとしています。
2年後の2023年には、法人格を完全統合し、日立化成(昭和電工マテリアルズ)を吸収する予定のようです。
この統合に当たり、3年間で160億円の費用を計画しています。
合わせて本社や拠点の統一を含む構造改革で、コスト改善を見込むようです。
旧日立化成を合併するのは、あまり驚きはありません。
別々の会社のままでは、それぞれの会社の文化や風習などもあり、買収した後のマネジメントも難しいでしょう。(所謂PMI)
せっかく昭和電工マテリアルズという社名にしたのに、3年後にはその社名もなくなるというのは少し寂しいでしょう。
そもそも決算期も昭和電工は12月決算で、日立化成は3月決算で異なっていました。
ただし、これについては日立化成が12月決算に移行すればいいだけです。
さらに会計基準も異なっていました。
日立製作所がIFRSを採用しているため、日立化成はIFRSです。
しかし昭和電工は日本基準です。
逆のパターン、つまり日立化成が昭和電工を買収するなら、昭和電工がIFRSを適用して終わりです。
しかし、今回は日本基準の昭和電工が買収する側で、IFRS適用予定もなさそうです。
つまり、日立化成がIFRS基準を止めるということになりそうです。
税務申告のために日本基準の財務諸表を作ることが求められるため、対応自体は苦ではないでしょう。
ただ一度IFRSに移行して、再度日本基準に戻す例は中々見たことがありません。
まとめ
本日は昭和電工の日立化成買収と新たなビジョンについて紹介しました。
まとめると、
- 昭和電工は日立化成の買収で1兆円企業になりそう
- 昭和電工は無機分野で稼いでいたが、当期は赤字
- 日立化成は6,000億の売上のメーカーで、一番の売上はモビリティ部材
- 買収は昭和電工が1兆円をかけ、のれん6,000億という、小が大を飲むM&Aだった
- 買収の背景には、日立の上場子会社の整理の意味もあった
- 2030年までのビジョンを公開し、売上よりも利益の伸びを重視したものだった
- その中で、2年後には日立化成(昭和電工マテリアルズ)を合併の予定と発表
- IFRS基準の日立化成が再度、日本基準に戻すという珍しいケースに
中堅同士の日本触媒と三洋化成の経営統合は中止になりましたが、今後も化学業界での合併は盛んに行われそうです。
売上だけではなく、収益にもこれまで以上にこだわる会社が増えるのかなという印象です。
稼げない事業は捨てる、それが当たり前になっていくかもしれません。
動画版はこちら
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