利益剰余金という言葉の意味を知ろうという話です。
最近、SNSでとある話を見かけました。
利益剰余金の概念が誤解されて、現金・預金みたいな理解がされている話です。
意外と勘違いされるんだなと思い、本日は現役経理マンが利益剰余金(内部留保とも呼ばれる)という言葉を解説します。
知っている人からすると、当たり前の概念なのですが、これを知ることできっと会社の会計を理解するのに、役に立ちます。
結論:利益剰余金は配当のためにあるけど、現金とはまた違う
利益剰余金とは?
利益剰余金とは勘定科目の一つです。
勘定科目は損益計算書(PL)か貸借対照表(BS)のどちらかに属します。
PLには売上とか人件費とか減価償却費などなどの科目があり、これは一定期間の会社の成績を見るものです。
一方、BSには現金、売掛金、借入金、資本金などなどの科目があり、こちらは、その時の会社の資産状況を示すものです。
利益剰余金というのはBSの科目となります。
すなわち、2019年3月31日(例)時点の残高がどれくらいあるというように把握ができるということです。(これは1年前から増えたり減ったりする)
BSは大きく2つに分けることができ、左側の資産の部と、右側の負債・純資産の部の2つです。
そしてこの2つは同額となるのです。(資産=負債+純資産)
利益剰余金はBSの中の純資産の中に含まれている科目となります。
これだけ読んでも、なんのこっちゃという感じですが、まずBSの科目ということを理解しましょう。
PLというのは利益の大小を計るものです。
利益というのは、粗利益、営業利益、当期純利益などいくつかあるわけですが、基本的には大きければ大きいほど良いと考えていいです。
一方でBSは、必ずしも大きいことが正義ではありません。
銀行から借入をすれば、預金という資産の科目が増えますが、同時に借入金という負債の科目も増えてしまいます。
BSはバランスが大事ということになります。
利益剰余金とは、純資産の中に含まれていますが、これは今までの利益の積み重ねです。
とある政治家の勘違い
説明として1行で済んでしまうのですが、ここでとある政治家の勘違いについて書いてみます。
かなり面白い主張なので、記事の全文を引用します。
小池晃・共産党書記局長(発言録)
史上空前の利益を上げている大企業への減税をやめれば、社会保障の財源ができる。大企業には十分体力はある。トヨタ自動車の3月期決算を見てみたら、子会社も含めて連結内部留保は約20兆円。毎日1千万円ずつ使っていくとする。想像できませんが、使い切るのに5480年かかる。縄文時代ぐらいから使い始めて、ようやく最近使い終わる。
このお金を生かしたら、何ができるか。内部留保を賃上げに回す。正社員の雇用を増やす。そうすれば、トヨタの車はもっと売れるようになる。トヨタ自動車の未来を考えて、私は言っている。法人税の減税をやめて社会保障の財源に回せば、将来不安が取り除かれる。そういう人がトヨタの車を買うかもしれない。こういうのを、経済の好循環と言う。
安倍さんの経済政策は破綻(はたん)が続いています。3本の矢、新3本の矢、合計6本も放って一つもまともに当たっていない。(川崎市内の演説会で)
要約すると、トヨタの利益剰余金(内部留保)は20兆と大きすぎる。
だからトヨタは賃上げをすべきで、これによって経済の好循環が起きる。
安倍さんはダメだ。
適当な要約ですが、この主張は非常に的外れとしか言えません。
そもそも利益剰余金(内部留保)が増えたり減ったりする要因は何かというと、大きく2つあります。
- PLの当期純利益が増えると、利益剰余金も増える
- 株主に対する配当金が増えると、利益剰余金は減る
非常にシンプルです。
当期純利益とは、最終利益とも呼ばれ、企業の最終的なその年の利益です。
先程も記載したように、利益は大きければ大きいほど良いです。
企業というのは、基本的に利益の最大化を目指すものです。(節税につながるので、利益を圧縮するケースも中小企業にはあり得ますが、これは例外と言って良いでしょう)
当然ながら、利益が赤字であれば、利益剰余金も減少してしまいます。
もう一つが配当です。
内部留保が大きすぎるという主張に応えるならば、配当を多くするというのが、利益剰余金を減らす方法でしょう。(わざわざ利益を赤字にする意味はないので)
株主への配当というのは会社の義務ではありません。
非上場の中小企業やマザーズに上場しているベンチャー企業でも、配当をしていない企業はいくらでもあります。
会社が今年はこれだけ稼いだから、これだけ株主に配当をしようと決定するのです。
ここで、もうひとつ理解につながる言葉を紹介します。
それは配当性向です。
配当性向とは、その年の利益の何%を配当に回したかという数値です。
配当をしない(無配)なら、当然ゼロ%です。
もしも今年の利益が10億円で、5億円だけ配当したなら、配当性向は50%となります。
5億円は配当に使い、残りの配当しなかった5億円が利益剰余金にプラスされるのです。
利益剰余金さえあれば、配当性向が100%ということもあり得ます。
利益剰余金の残高が100億円あれば、今年は1億円しか最終利益がなかったとしても、5億円配当することも可能なのです。(こうなると配当性向は500%となります)
上記の政治家の方が間違えているのは、賃上げによって利益剰余金(内部留保)を減らせると主張しているところです。
賃上げをすると、PLの人件費は増えて、利益は減少するから、利益剰余金も減少することは減少します。
しかし、減益になれば、企業の競争力は低下していると考えられ、トヨタという会社にとってはマイナスです。
トヨタで働いている人にとっても、企業の競争力の低下は歓迎すべきことではないのは自明です。
内部留保が大きすぎると主張するなら、配当を増やすべきというのがまっとうな主張である。
ただし、それでは自分の言いたい安倍政権や大企業(トヨタ含む)の否定が出来ないのでしょう。
だから賃上げをすべきという主張の後付として、内部留保を例に出していると思われます。
つまり、確信犯的に使っている可能性もありますが、そもそも内部留保とは現金のように目に見えるものではないのです。
現金が20兆あって、毎日使うとこうなるというなら、一応理解はできます。(ただし民間の一企業の現金をどう使うべきかを、政治家が主張する意味はわかりませんが)
内部留保とは、企業の利益の積み重ね(配当後)なので、それをどう使うかは企業が判断すべき話なのです。
配当を増やすと、その分だけ現預金が流出するので、例えば設備投資に使う分が減少してしまうでしょう。
ベンチャーが無配なのは、投資すべき対象が他にあるということが要因として挙げられます。(配当に使う前に成長のための投資がしたい、安定的に利益が出せるという確信がない)
ただし、近年の議論として、確かに日本の企業は内部留保が大きすぎるという主張もあります。
アメリカなどと比較して、日本は慎重な経営なので、溜まった内部留保を株主に還元すべきという話もあることは理解しておきましょう。
ビジネスマンなら利益剰余金という言葉は正しく理解しましょう。
ここまでお読みいただきありがとうございました。