試みとしては非常に面白そうな、1年だけ取締役になれる会社リリースを解説します。
東証の適時開示情報を見ていると、おっ!と思うリリースがありました。
それがEPSホールディングス株式会社の下記のリリースです。
取締役及び監査役候補の選任、組織体制及び執行役員体制の変更に関するお知らせとなっています。
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120201019405188.pdf
これを見ると、何と一年限定で、若手経営層代表と社員代表が取締役に選任されるというものです。
こんな例は見たことがないので、少し調べてみました。
EPSと言えば一株あたり純利益と言いたいところですが、これは社名です。
1年限定の取締役のメリット、デメリットどちらも経理マンの視点で紹介します。
是非、最後までご覧下さい。
結論:試みとしては間違いなく面白い
EPSホールディングスとは?
まずはEPSホールディングスという会社を調べます。
HDって何という方はこちらをご覧下さい。
www.finance-accounting-value.com
CROやCSOって何だとなりましたが、会社HPから引用すると、下記です。
EPSグループは、製薬会社や医療機器メーカーから臨床試験を受託するCRO(Contract Research Organization/医薬品開発業務受託機関)、臨床試験を担う医療機関を支援するSMO(Site Management Organization/治験施設支援機関)の双方を通じて、医薬品・医療機器の開発に不可欠な治験業務をフルサポートしています。
また、新薬の上市後の営業活動を支援するCSO(Contract Sales Organization/医薬品販売業務受託機関)や製造後の販売調査、さらにはヘルスケア産業を対象としたNRO(Next-stage (New) Research Organization)やITサービスなど、製薬会社や医療機関のビジネスを支える幅広い事業を展開しています。
なかでも、創業以来の主力事業であるCROでは、国内No.1の受託実績を有し、とくに抗がん剤や脳/神経系、循環器系など、今後の新薬開発のターゲットとなる分野で強みを発揮しています。
新薬開発の治験支援(CRO)や医薬品販売支援(CSO)など、医療に関わるビジネスとまとめることが出来そうです。
5年間の業績を見てみましょう。
売上高は順調に拡大し、5年前の450億円→690億円まで成長しています。
当期純利益は上下がありますが、22億円→36億円となっています。
売上や利益の規模から中堅会社と判断出来るでしょう。
会社の規模ってどうやって判断するのという話はこちら
www.finance-accounting-value.com
大株主も合わせて確認します。
筆頭株主は、創業者社長の会社のようです。
有限会社ワイ・アンド・ジーの住所が、会社住所と一致しています。
大株主の状況でこの会社なんだろう?と思ったら、住所が会社の住所(社長の住所)と一致しているかを見てみましょう。
一致していれば、資産管理会社という社長などの節税対策の会社の可能性が高いです。
セグメントとしては、下記のような形です。
国内と海外に分かれています。
事業ごとの売上と利益についても少しだけ見てみましょう。
CRO事業が売上と営業利益ともに、一番の柱です。
従業員は約6,200名で、やはりCRO事業に人が多くなっています。
リリースの意味とは?
ここから特徴的なリリースを解説します。
取締役会の構成は、12月下旬の株主総会での決議によって下記に変化します。
- 代表取締役会長 創業者 58歳
- 取締役社長執行役員 執行役員から昇格
- 取締役副社長執行役員 64歳
- 取締役常務執行役員 62歳
- 取締役常務執行役員 執行役員から昇格
- 取締役執行役員 グループ内若手経営層 代表
- 取締役 社員代表
- 社外取締役 74歳
- 社外取締役 63歳
- 社外取締役 61歳
この6番と7番の方が、1年だけ取締役を務めるということのようです。(厳密にはこの会社の場合、全ての取締役の任期が1年)
年齢が分からないのが残念ですが、株主総会の開催案内には経歴等が記載されるので、いづれ分かることにはなります。
興味深いのは、特に社員代表として取締役になるというパターンです。
執行役員から役員(取締役)に昇格するのは、他の上場会社でもよくあります。
通常の出世としては、下記が多いでしょう。
平社員→主任・係長→課長→次長→部長→本部長→執行役員→取締役なんてイメージです。
1年だけ取締役を務めることは、メリットもデメリットもあるでしょう。
メリット
- 失うものがなく、若手でも自由に意見が言える
- 上場会社の取締役を、1年でも務めたという実績は中々手に入らない
- 取締役会や経営会議など、責任ある会議に参加できる
デメリット
- 取締役会のメンバーが高齢で、率直な発言が出来るか
- 従業員ではなくなるので退職金が計算されない
- そもそも1年で交代するという前提で見られてしまう
- 周りのメンバーからの視線が変わる(1年限定で、昨日までの上司が部下になる)
従業員(執行役員)と取締役の違いについては下記の記事もあります。
www.finance-accounting-value.com
従業員と取締役の違いはボーナスの有無もあります。
従業員にはボーナスがありますが、取締役は年棒制です。
そもそもの取締役としての報酬は、どうなるのかも気になるポイントです。
従業員だった時と変わらないなら、取締役としての責任って何だという話になるので、全く同じではないのでしょう。
しかし、どれだけ上乗せするのかとか、他の取締役との差がどれだけにするのかなど考慮ポイントは多いでしょう。
さらに会議で若手の声が訊きたいだけなら、取締役会にオブザーバーとして参加してもらえばいいだけです。
上場会社でも、若手社員がランダムで経営会議や取締役会に参加出来るという珍しいシステムを採用している会社もあります。
こう考えるなら、EPSHDの取り組みは一定の取締役としての責務を持ってもらうことになるのでしょう。
経理マンの勝手な感想
取り組みとしては評価したいですが、期待した効果が出るかは微妙なのかなと思います。
取締役の任期は、短ければ1年です。
1年経てば首ということも形としてはあり得ますが、1年だけで取締役を退任するパターンは少ないです。
今回の試みは最初から1年限定と制限している点が、吉と出るか凶と出るかという感じです。
取締役とは、スポーツで例えるなら、人事権も持つ監督のようなものです。
本来は結果が出なければクビになるはずなのですが、会社においてはペナントレースで最下位でも続投なんてことがしょっちゅうです。
そして、この取組が成功したかが非常に判断しにくいです。
業績が向上して、それが1年限定の取締役の力だったのかと言われても、やっぱりそうは断言できないでしょう。
やはり、あくまでも創業者が力を持つオーナー企業なので、創業者の会長には逆らえない構造になっています。
ただし、この試みとしては非常に面白いでしょうし、今回従業員から選出された代表の方にとっては大きな成長のチャンスでしょう。
滅多にこんなチャンスはないので、自分だったらめっちゃ嬉しいと思います。
勝手な想像ですが、経理はこの代表には選ばれなさそうではありますが。
1年後どうなっているのかが、非常に気になる会社であることは間違いありません。
また進捗等あれば、追記や別の記事なども作成しようと思います。
まとめ
本日は、EPSという会社の1年限定取締役というリリースを解説しました。
まとめると、
- EPSHDは医療に関わるビジネスを行っている会社
- 大株主は創業者社長
- 売上規模などからすると中堅の会社
- 社員と執行役員から1年限定で取締役を選出
- メリット、デメリットどちらもあるが、取り組みとしては非常に面白そう
- 期待した効果が出たかを判断するのは難しい
この会社がどうなっていくのかには注目したいですね。
ただ、感覚としては、来年にはこの制度を止めている可能性も十分にあるのかなと思います。
グループ社員の声を経営に届けるという試みは独創的ではあります。
※追記
株主総会招集通知で、従業員代表のプロフィールが判明しました。
なんと56歳の現人事部長を選任するようで、少し期待はずれの内容でした。
流石に若すぎる人は選ばないのだという、メッセージが透けているように感じてしまいました。
これなら取締役にするのではなく、普通に執行役員に昇格すればいいような気がしてしまいます。
動画版はこちら
ここまでお読みいただきありがとうございました。